瞳を閉じたまま



「ねぇ、君」

金属製の風鈴みたいな声が通り抜ける。
横文字の羅列が厚みを増したモノのスキマから黒がチラつくのが見えた。

「へ、ぁ…?」

一瞬思考が停止して、そのあとすぐに動き出す。
そうでなければならない、と体が結論付けたためだ。

「ヒバリさん!な、なんでこちらに…?」

「別に僕がどこにいようと僕の勝手でしょ。おはよう綱吉」

Buon giorno、この人の声で聞くイタリア語の挨拶にはあまりなじみが無かった。
挨拶以前に、会う機会自体が稀だからだ。
久々、何ヶ月ぶりだろう、彼は。

「これ、邪魔だね」

こちらの了承など得ずに、デスクの上に積み上げられた書類の山を突き崩した。
ずざぁぁぁ、乾いた紙の、それはそれは小気味いい音!

「…」

言葉も出ない。
一応アレは、優先順位別に並んでいたのだけれども。
床にはらはらと舞い落ちてくる紙は、もはやどれが何なのか判別もつかなかった。

「何か文句でもあるの」

「イイエ、ゴザイマセン」

頭がくらくらする上に、なんだか視界がかすんで見えた。
そういえばいくらヒバリさん相手とはいえ、室内に侵入されたにもかかわらず俺は全く気づかなかった!
もしやこのヒバリさんは俺の見ている夢なのか、そうなのか。
いや、是非そうであってほしい。

とそこまで考えたところで彼の手がスーツの内側に手を伸ばした。
ちゃんと見えてたのはそこまでで、その後はというと昔彼が愛用していたトンファーが俺の脳天をカチ悪べく振り下ろされる1コンマ手前まで時は飛んでいた。
おお、一応ちゃんと受けれた、最悪だ。
負けず嫌いのヒバリさんがこの後どういった行動を起こすのか3パターンほど考えて、やめた。
結局どれも痛そうだった。

「綱吉」

けれど、彼の実際の行動はといえば想像したうちのどれとも全く違っていた。
手、が。



「六道骸と分かれたんだってね」



優しく撫でるでもなく、小突くでもなく、ただ頭に触れた。
俺は瞳を閉じて、閉じたまま、閉じたまま