未題
| 六道骸は小説家である。 小説家、といってもそうご大層なものではない。 書いた本がメディアの売れ筋ランキングに掲載されることはなかったし、昨今では頻繁に行われているメディアミックス化などもしていない。 かといって、売れていないわけでもないのだ。 本屋で探してみれば、どこの本屋にも一冊か二冊は六道骸の本が置いてある。 一部層からは絶大な人気を誇る作家だが、その”一部”が問題といえば問題なだけで。 六道骸は小説家である。 取り繕わずに言ってしまえば、彼は官能小説家だった。 どうあっても市場は限られてしまう上に、大々的に流行りにくい。 風雅で情緒溢れる、ライトなそれであったのならばまだ別だったのだろうが、彼の書く小説は、言葉に出すのも憚られるほどの過激な内容だった。 ストーリー性を上から塗りつぶすような濡れ場の描写は、どこか非現実味を帯びているが、リアルとしか表現の仕様が無いもので。 まさに官能小説界の異端児、と言って良いだろう。 大衆文芸でなくとも、それで食べていけるレベルの作家。 「僕は好きな事を続けられればそれでいいんですよ」 と、彼は言う。 鉛筆が紙を滑らせる音、それから開け放たれた窓から侵入してくる夏虫の声。 どちらの単調であって、どうにも眠気を誘う。 ただ単に睡眠不足と、真夏の茹だるような暑さのせいかもしれないが。 「だったらさっさと原稿上げてくださいよ先生」 「嫌ですねぇ、今日だってわざわざ学校をサボタージュして執筆に勤しんでいるというのに酷い人だ」 彼は先の丸まった鉛筆をカラ、と机の上に転がして笑った。 10歳も年下の彼は確かに俺の担当する小説家だったけれど、そう。 現在27歳の俺の、10歳年下なのだから、もちろん彼は17歳なワケで。 「…誰が、いつ、わざわざ学校を休めって言ったよ」 溜息交じりの一言は、ついに敬語で無くなった。 「だって、そうでもないと締め切りに間に合いませんよ?」 分かってる。 だというのに、骸はひどく嬉しそうに、とても楽しそうに、笑っていた。 |