「出直してきた!」
どうだ、とばかりに胸を張った綱吉に面食らって、骸は一瞬思考を停止させた。 はぁ、という疑問を含んだ嘆息が二人の間に生まれて、それに綱吉は眉根を深く寄せた。
「だ、から!出直してきた、ってば!」
季節は六月。 日本であれば、鬱陶しい梅雨の季節だ。 しかし、イタリアに雨季はない。 湿気を含んだ空気がどうしても好きになれない骸にとっては良いことであったが、イタリアの六月は一年で最も気温が上昇する。 カラリとした天候に負けないくらい、枯れるくらいのあつさでもって詰め寄ってくる綱吉に、骸はただぽかんと口を開けるだけだ。 平生ならばありえない、と言い切ってしまえることだが、綱吉の様子があまりにも必死で、真剣だったものだから。 じりじりとにじり寄ってくる綱吉を右手で制して、骸はなぜかうろたえる自身を落ち着けるように名前を読んだ。
「ボンゴレ、」
「一年、短いんだか長いんだか、ぜんっぜん分かんなかったけど、俺ちゃんと考えたんだぞ」
触れた右手をそのまま掴みあげて、綱吉はぎゅう、と手を握った。 あいているほう手で、不自然に膨らんだポケットを探り、骸がそれが何であるかを知覚する前に骸の手に握らせた。 引き寄せられた力が、自分の思っていたものよりも幾分か強いことと、綱吉のペースに引き込まれていることに、骸は酷く困惑する。 指先に触れたそのの感触を、なぞる。
「誕生日、おめでと」
は、あ。
今度息を吐き出したのは、綱吉の方だ。 俯いて、けれどすぐに顔を上げる。
「確かに、他人から聞いてとか、そういうのは、良くなかったかもしんないけどさ、俺だって、祝いたいと思ったからそうしたわけで、喜んでもらいたかったから、そうしたわけで、おめでとうっていう気持ちは、一年前も本当だったんだからな!」
ゆっくりと、包まれた手を開く。 無理やり握らされたそれを、ようやく骸は目にした。 手のひらにすっぽりと埋まってしまうような、小さな箱だった。 シンプルな白い正方形に、藍色のリボン。 金字の刺繍が施されているが、骸はそれになんと書いてあるか読み取ることができなかった。
「それ、から」
綱吉と骸の視線がかち合う。 綱吉の視線は骸へと向けられていたが、また、別の誰かへと向けられているようでもあった。 す、と息を吸い込んで、綱吉は叫んだ。
「俺が、選んだから!!」
むくろの、ために!
短く切って、続けた言葉を投げつけたすぐ後。 綱吉は踵を返して走り出していた。
「ちょ、ボンゴレ!」
骸が叫び返す頃には、綱吉の背中はすっかり見えなくなっていて、取り残された骸は一人、かぶりを振った。 力任せにされたせいで、角のつぶれた小箱と、取り残された男が一人。
ゆら、と空気を揺らして霧が笑う。 骸はくたり、とその場に座り込んで、空いた手で頭を抱え込む。 軽い立ちくらみを覚えるが、それが当たり前であるかのごとく、不快感は無かった。 息を吐く、けれど先ほどのそれとは温度が違う。
「あ、つい」
ボソリ、と呟いて。 骸は目を閉じた。
だって、六月ですもの。 特別な。
鈴鳴りの声が響いて、骸は小さく、うるさい、と返した。
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