飛べない龍



いやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだ!!

どうしてあなたまで私を独りにするの
もうあれ以上の寂しさなんて、二度と味わいたくないのに
好きだといってくれるならどうして置いていくの
私よりも大事なの、ねぇ、そんなに大事なの
ゆるさないんだから、ぜったい、ゆるさないんだから!!!!!



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ぱちり。
目を覚ますと、もう何度目かの悪夢に頭が揺れた。

(いいや、あれが悪夢であるはずがない)

セイロンはかぶりを振って、寝乱れた髪を手櫛で流す。
その度にカチャカチャと鳴る金属が(相変わらず)不快でたまらない。
せめてもう少し風流な音であったなら、、何も変わらないだろうが。
天窓の小さな窓は閉じきられていて、けれどそこからは青空が覗く。
久しく同じ空気しか吸っていないせいか、一層外が魅力的でたまらない。
しかしセイロンがいくら望んでも、それは叶わないのだろう。
動きを制限する銀色の鎖は、どこから手に入れてきたのか召喚をも封じるもので、とても自らの意思で外すことが出来ない。
左手、右足にひとつずつ着けられたそれは狭い室内の中でただ生きるだけなら何の不自由もない。
ただ、生きるだけならば。

(いっそ丈夫な体が呪わしい、人間のように脆弱であれば何かが変わっただろうに)

けれどそれがどうしようもない逃避だと知っていた分、セイロンは狂えない。
人間よりも長い生の、ほんの瞬きの間だと分かっている。
心から望んだならば、籠の外へ出ることも容易いだろうに、けれどセイロンはそれをしない。
壁に背を預け、力なく瞳を閉じる。
空気が足音を伝え、それをただ静かに聴くだけだ。

ノックもなしに、戸があけられる。
差し込む光の眩しさにセイロンはゆっくりと閉じたばかりの目を開く。

「セイロン」

明るい声が、呼ぶ。

「おはよう、セイロン。今日もいいお天気だよ」

(どうせ、その空の下に晒す気はないのだろう?)

彼女の狂気に、セイロンはただ囚われ続ける。
己が撒いた業だと、卑屈に思っても時は戻せない。
自身が狂おうにも、彼女の狂気がそれを自制させた。

「もう随分と陽も高いぞ、フェア。寝坊したな」

ごめんなさい、きらいになった?
と、乾いたような声。

ならば彼女の望むとおりに、生きればいいのか。
セイロンの笑みに、彼女も笑う。
自嘲じみた口調にも、まったく意に介した様子がない。
分かりようもないのだろう、彼女は狂っている。

(我が、狂わせてしまった)

この身を留めおくのは、罪悪と、同情と、憐憫と。


「そなただけを、愛しておるよ」



どんな形になろうとも変わらない、彼女への愛だった。