灯火数多(あまた)、揺らめいて。
未だ空気の冷える夜空に、それは一瞬よりも幾許か長い間僅かな熱を発していた。
淡い光はやわらかく、カンテラを持つ彼女の手元を照らした。
夜の散歩、というにはあまりにも情緒のない。
月は雲に隠れ、かろうじて星の見える、そんな夜だった。
ざくざくと歩みを進めていく彼女の足取りは軽く、そして確かだ。
なだらかな丘陵の…けれど尋常でなく長い距離の道など、斧をも自在に振り回す彼女にとっては体力を消費するほどのものではないのだろう。
…こんな時間に十もいくつか過ぎたばかりの少女が出歩いているというのに、あまり心配していない自分もどうなのかと思う。

「店主殿、もう大分時間も遅いが良いのかね?」

無論、答えは分かっていたがそう問わずにはいられなかった。

「うん、いいの」

普段の彼女からしてみれば、あまりにもそっけない返事。
ざくざくざく、彼女は歩みを止めない。
心なしかその歩みが速まった、ような気がした。

「いいから、ついてこなくても、いいの」

ついてくるな、追うなと、そんなような意味だった。
やんわりと、しかし確かな拒絶にけれど追従する気は毛頭無かった。

「我が好きでやっていること故、気にするな」

ゆらゆらと揺れる、色を追う。
小さな肩が声に反応するように跳ねて、彼女は一度歩みを止めた。
そうして、少しばかり遠くなった街の光を眺めて、溜息を吐いた。

「なんで、ついてくるのよ」

「何故、と…そなたがそれを言うのかね?」

逃げるように、それも隠れて宿を飛び出した彼女の背は、あまりにも寂しげだった。
彼女は強いのだと、例えば彼女の幼馴染が、言うが。
その強さは、体のものか、心のものか。
どちらにせよ、まだこんな、子供だというのに。
他人に優しく、自分に厳しい、そんな、不器用な子供。

「フェア、こちらを向きなさい」

「…やだ」

「フェア」

小さなともしびが、小刻みに揺れていた。
カンテラを握る手が、ふいにそれを取り落とす。
かしゃん、火はあっという間に掻き消える。
暗い闇、夜。

反射的に彼女を抱きとめて、逃げられないように腕で囲った。
やだ、と抵抗にもならないような抵抗で、彼女はかぶりを振った。
手元にあった灯は消えて、街の光がうすぼんやりと視界に滲む。

「寂しいのなら、押し殺さずとも良いのだよ」

彼女は強い。
確かにそう思う、みなもそう言うだろう。
けれど、同時に彼女はとても弱いのだ。

「隠れて泣かずとも、なにもみっともないことなどではないのだから」

着物の裾を、彼女の手がぎゅうと握った。

「いやよ、みっともないもの」

「この期に及んで、そんな事を…」

思わず苦笑して、幼子にするように頭を撫でた。

「だ、だって、今までは一人だって平気だったのに、一人が怖いだなんて、子供みたいで、みっともない」

吐き出した彼女の言葉は、ともしびのように揺れている。
それを黙って聞いていれば、彼女はあいた隙間を埋めるようにとうとうと言葉を綴った。

「今は、こうやって皆がいてくれる、嬉しいよ、寂しくなんて無い。けど、全部終わったらって、思ったら」

子供のように愛を注ぐ竜の子も、いずれはどこかへ。
そんな別れを、聡い彼女は知っていた。
一人きりの孤独も、一人でない嬉しさも、だからこそ。

それでも、一人にしないと、彼女にいってやれない自分が憎かった。

「…そばにある限り、そなたのともしびは我が灯そう。だから、泣くでない」

こんな、曖昧な約束なんかではなく、確かなものを与えてやりたかった。
泣いて欲しくないというのは自分勝手な思いで、どうか笑顔でと、口には出せない想いが燻った。

自分ごとき、小さな火が、どうして彼女を照らせようか。
せめて月の様に、ずっとそばにあって、照らせたなら。