寝屋に響くは 子守唄
子守 篭りて、響きやる
紡ぎ瞑りや瞼裏の、見ゆる夢の色を問う


ひらり
夜空をなぜるように光の鱗を纏った蝶が舞い踊る。
天窓からその残滓がもれて、仄暗い部屋がわずかに明るんだ。
反射的にそれを見やり、男は唄を止めた。
それほどまでに、奇跡的な、軌跡だった。
文字通り、言葉を奪われるほど。
「や、」
しかしそれを遮る声に、男は苦笑しながらもう一度言葉を紡ぎだす。
ほんの一言にもならない、言葉未満の言葉で先をねだった少女はそれに安心したのか僅かに起こした状態を再び無造作に転がした。
そうしている間にも、光の蝶はどこぞへと去ってしまい、部屋を照らすのは星光のみとなった。
時折生まれる衣擦れの音は男の声にかき消され、まるで無音だ。
月光よりも明るい銀糸の髪に指を絡ませ、男は唄を続けた。
独特の、少女にしてみれば思考しなければ理解できないほどの特殊な言い回しは、その意味がなくとも子守唄には最適だった。
一篇が短いためにすぐに終わってしまう。
少女はそんな唄を終わるたびに男にせがんだ。

眠れぬ夜に紡がれる唄のために、少女は耳をすませ、息を殺す。
眠れないから、せがむのではない。

子守唄に混じって、ささやかれる、あいのうた。
それを聞くためだけに、眠気さえも跳ね除けて。


愛してゐる

例えば、そんな言葉の為に。



恋いを乞いては愛し逢う
夢 覚め、 現
意図し、愛し


言い渋る言葉、全て、唄に乗せて。