例えば、そんなものを俺は今まで考えたことがなかったんだと思う。
母親に似て体の弱い妹、そして俺と同じく不幸にも父親に似てしまった妹。
その二人を、守れないだなんて、そんなこと。
いいや、正しくは一度そんな思いはもう既に折れてしまっていて、今度こそは、と思ったのかもしれない。
一度目は、そう。
俺達家族が、一緒にいられなくなってしまったあの時だ。
俺は二人の兄ちゃんなんだから、何があっても守っていこうと決めた二人の妹。
エリカ、が。
病気で、この街の医療ではどうしようもなく、その治療の為に父親とこの場所を出て行った時に、俺の心の中での誓いは破られた。
お兄ちゃん、お兄ちゃん。
そういって後ろをついてくる妹達を、ずっと守っていきたいとおもった。
泣かせるものか、そう思ったのに。
まず、エリカが泣いた。
苦しいと、悲しいと、離れてしまうのが嫌だと言って、泣いた。
それでも何とかなだめて、ずっと離れるわけではないと、自分自身にも言い聞かせるようにして、なんとか泣き止ませて。
フェアは、一滴の涙を零すこともなく、俺と一緒にエリカの背を撫でて、頭を撫でて、そうしていたけれど。
子供二人には大きすぎる家で、寂しさを振り払うようにして、幾月たった頃だろう。
ある夜に目を覚ますと、フェアが静かに泣いていた。
嗚咽を漏らさずに、静かに、静かに、泣いて。
”さみしい” それだけ、その一言だけを、残して泣いた。
このときほど、父親に似たことを呪ったことはなかった。
俺達は、どうしようもなく不器用で、強がりで。
朝が来れば、いつものように振舞う。
決して、弱味なんて見せない。

今度こそ、今度こそ。
これが最後だと、そう思った。
もう二度と、こんな思いはさせない。
ずっと、ずっと、自分が守っていくから。
そんな弱さごと、守るから。

「なのに、ずりぃよなぁ…」

あの細い肩を抱いて慰めるのは、寂しさを埋めるのは、もう自分ではないのだ。
一生、なんて言葉はないのだとようやく知る。

「フェアのやつ、あんな甲斐性なしに捕まりやがって」


ケタケタと、嗤う。
自嘲のような、負け惜しみのような。

なんだ、おいてけぼりなのは、結局俺のほうだったのか。
悔しいと思っても、記憶の中のフェアは笑っている。
エリカも、きっとこの先。

「あーあ、馬鹿みてぇ」

エリカが泣いて、フェアが泣いて。
それを慰めるのが、自分のはずだった。
今はその役目すらなくて、どうしようもない。

「馬鹿、だよな」

なら、今度は自分の番だとばかりに泣くのもいいだろう。
きっと、愛しい妹達は他を放ってでも慰めてくれるだろうから。

守れない可能性が、あるのなら。
守ってもらってでも、それを覆そう。

そう易々と、くれてやるもんか!