いつだったか、あのヒトの言った感想をふと思い出したのだった。

こういった甘さは苦手なのだと、そういいながら全部食べてくれた。
あの時は、異界からやってきた彼に対して、食べ物の好き嫌いなんて気にすることはないよって、返したのだっけ。
好き嫌いなんてそんなものだから。
なんて、なんで今更思い出してしまったんだろう。
それもこれも、苦手だと言うのに結局は全部食べきってしまう彼が悪いのだ。
だからつい、忘れてた。

甘い匂いがすでに充満している、一人きりのキッチンに立っている自分が急にむなしくなってきた。
どうせ彼にとっては馴染みのない風習だろうから、別になくてもかまわない。
うん、ぜんぜん、いいんだった。
一口大の大量のカップケーキのほかに、でん!と鎮座しましているチョコレートケーキを見て、そう、今更見てハッとした。


「なんだ、いらないじゃん」


本命とか、作ったの、は。

実は初めてだった。
そういうことをしている自分に浮かれてしまって、それが、むかつく。


「好みの把握も忘れるなんて、料理人失格、かも」


匂いに酔ってしまって、自分で食べるという思考すら浮かばない。
それを作った両手で持って、皿ごと持ち上げて、ごみばこへ。

ごー。


「なんだね、折角作ったのに勿体無い」


……できませんでした。


「どっから沸いてでたのよ…」

「これ、ヒトを孑孑か油虫のように言うでない」


いつの間にか背後に立っていたセイロンの手が、しっかとケーキ皿をつかんでいた。
もうとっくに寝たと思ってたのに、しかもなんでこんなところに。


「こんな夜更けに菓子作りか」


心なしか、いつもよりも表情に意地の悪さが表れている(気がした)。
うっかり慌てそうになる自分を抑えて、なんとか反論する。


「別に、いつしたっていいじゃない」


…反論になりきりませんでした!
今は扇子で隠れていない口元が、笑う。


「のう、店主殿。もうとっくに日付が変わっていることはご存知かな?」

「…知りません」

「で、あるからして」


セイロンの手が、ケーキに伸びた。


あ。


「我には、当然これを貰う権利があるのだろう?」


ああ、もう。
どこまでも底意地が悪い。

甘いのは、苦手なんじゃなかったの、と。
俯きがちの声が、ほんのちょっと篭った。
それを返してくる声が、あんまりにも明るかったので私は照れた。


「フェアが我だけの為に作ってくれたものが、美味くないわけがないだろう?」


まさか知ってるはずもないと思ったので、それはまったく予想外だった。
それとも今日という日を範疇の外に入れても、そう思ってくれているのだろうか。
どちらにせよ、ああ、もう!



バレンタインが本当はこんな気持ちになるものだなんて、しらなかった!










Happy Valentine!!!