無音の中






どうせ石に名前を刻んでくれるのなら、一分のすきまもなく側へ置いてくれればいいのに。
長く慣れ親しんだ屋敷の縁側へ寝そべりながら、セイロンはそんなことを思う。
鬼妖界での暮らしが、何も嫌というわけではない。
ただ感情を揺さぶるものがないだけだ。

(ああ、主はいつまで我を放っておく気なのだ)

時間にして、一週間ほどだろうか。
最後に喚ばれたのは確かそれほどに前で、それこそ時間単位で待ちわびているセイロンにとっては苦痛でしかない時間の繰り返しだった。
人間に比べたら長い時を生きる龍人にとって、それほどの時間が一体どうしたのだと笑うほどの期間でも、ある。

「若、昼餉の用意ができましてございます」

「いらぬ」

食事ものどを通らないとは、正にこのことだ。
何も堕落した日々を送っているわけではない。

(役目を果たさねば、主に叱られるからな)

手も、口も、この場においてすべきことをしている。
その原動力が、リィンバウムに行く前と後で変わっただけのこと。

「若」

(うるさい)

下女の声が、本の一瞬だけ彼女と重なる。
けれど彼女はこんなよび方をしない、とその想いをかき消した。

「わ」

それ以上よぶならば、いっそ引きこもってやる。
そう思った瞬間に、体が引き摺られた。

ぐん、と体全体にかかる圧力は気持ちが悪いが、嬉しかった。
喚ばれ、る。


異界を通る間はひたすらに無音で、わずかばかりの間心が躍る。
無音の中、思うのはただ一人のこと。










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IFセイロン護衛獣ED
〜常駐ではないのです〜