「ところでな、歩」



「ん?」



知り合ったのも今日。
敵だなんだと言われて、いきなり同居することになったのも今日。
別にどうでもいいが、義姉が退院した時どう説明したものか・・・・・?
と、生死のやりとりをする状況にもかかわらず二人で夕飯の片付けに勤しんでいた時。
火澄が食器棚に皿を戻し、手を止めて歩を見つめた。
皿を洗ってた歩は手を止めずに相手の発現を待っていた。





「ちょっと失礼」




言うなり火澄が歩の腰に両手をあてた。





「は?なにっ・・・・っわぁ・・・・・・!?」




瞬間、歩は思い切り仰け反って手に持っていた泡付きのスポンジをボトリと取り落とした。
くすぐったさのあまり床にへたり込んでワナワナと震える歩。
突然の予期せぬ出来事に驚く歩を尻目に火澄は歩の体を撫で回している。


何故?何故に男が男に体を撫でまわされにゃならんのだ!?


突発的出来事に弱い歩も数秒後、ようやく状況を把握した。
歩は泡だらけの手で火澄を引き剥がそうとしたが、寸での所でかわされた。
少し泡が床に飛び、台所を汚すのも嫌で急いで手を洗う。
火澄に目で不満を訴えながらタオルで手を拭いた。




「あーちょいまち・・・・別に下心あってやったわけやのうて・・・・・・」



「あってたまるか!!!」



水色のハンドタオルを丸めて火澄の顔面に向かって投げる。
今度は大人しく喰らったが、全く痛くないだろう。






「いや、あのな・・・・・・・・」


「早く用件を言え、事と次第によっては許してやる」






バックに陰気な怒りオーラを漂わせ何時の間にか包丁を手にしている歩ははっきりいって怖かった。
このまま包丁で刺し殺されて終わり・・・・なんていうおそらく清隆にも予想外の終末を迎えるのは嫌だったので、火澄は早口で弁明した。





「俺、あんま着替え持ってへんねん。だから歩に服貸して欲しいな〜なんて思ったんやけど、サイズ合わなかったらどうにもならんから買おうかなーと思って、でもやっぱり一応初対面で此処までしてもらって悪いかな〜とも思ったりして、散々迷った挙句の行動であって・・・・・・・セクハラちゃうんやで・・・・・」




しゅん・・・となってしまった火澄を見て怒る気も失せた歩は大きなため息をついた。





「・・・・・・・・・・直接俺に服のサイズ聞けばよかっただろうが・・・・・・・・」


「あ!」










あ!ってアンタ・・・・・・・気づけよ・・・・・・・・。









「・・・・・・・・・・まあ問題は解決したんやし、ええやんか!大体サイズ同じみたいやし・・・・服借りてもえええか・・・?」



「・・・・・・・・・・・別にいいけど」





断る理由もないし・・・・と付け加え、歩は再び皿洗いを開始した。





「ありがとうな〜」




人懐っこい笑顔でお礼を述べ、火澄も片付けの手伝いを再開した。
カチャカチャと食器が音を立てる。
なんだかこんなにほのぼのとした空気は久しぶりで、歩は内心戸惑っていたが、こんなのも悪くないと思っていた。
敵同士だというのにこんなに和やかなムードを醸しだすのもなんか変な気がするのも本音だが。





普通に暮らせていたら、もしかしたら友達に成れていたかもしれない。
ヒトとの馴れ合いを好まない歩だが、火澄と一緒にいても何の違和感が無い。
寧ろ心地いい。
















「でも歩って細っそいな〜。そこらへんの女子よりも軽んちゃう?清隆に似た顔なのに美人さんやし。料理上手やし」
















ピシリ

















歩の持っていた皿に大きなヒビが入った。
ついでに先ほどまでも和やかムードにもヒビが入った。


















『歩は可愛いな〜vv料理も上手だし、将来いいお嫁さんになるぞ〜vvv』



















似ている・・・・・・・・・ノリが非常に良く似ている。
しかも誰かと違って意図的でないだけにタチが悪い。


心地よい・・・・・・・・・が疲れる。
この感覚は間違いなく・・・・・・・。










「きっといい嫁さんになれるな、歩はv」

















・・・・・・・なぜだろう、この先が急に不安になってきた。
脳裏の片隅には兄の不敵な笑顔がフッと浮かんで、消えた。