ピチャリ







生暖かい粘着質の液体が頬を濡らした。
ゆっくりと流れていく液体は赤黒く、辺りの空気の冷ややかさでやがて固まる。
両の手に視線をやってみれば血塗れの指。
躊躇うように、その指を口に持っていき、ざらつく舌で舐め取った。








「マズイ」







生き物の体内を流れる血液。
生きているという証。
あんなにも温かかったのに、今はその片鱗すら見ることが出来なかった。
足元に横たわる異形の物体。
つい数分前までは四本の足で立ち、鋭い爪で襲い掛かってきた生物。





命なんて簡単に消えてなくなる





その脆さに、心動かされたから殺した。
人ではない生き物を、自分とは違う生き物を。
だって、これはこの世にあってはならないものだから殺したって構わないだろう?
堅い毛皮に包まれた肉を、鋼の刃で少しづつ削り取る。
そのたびに流れる鮮血と漏れ聞こえる絶叫。
醜い声で鳴く生き物を、冷徹な目で見つめて、その体が大地に沈むまで冷淡に刃を振るった。
口から空気の擦れるよう音がし始めて、力なく倒れた生き物の腹に血に濡れた刃をつき立てて、少年は笑った。





戦いなんて、血を流すことなんて大嫌いだった。
でも、大切なものを守るためならどんなことをしたって構わなかった。












自らが狂うことすら厭わなかった










「そうやって、自分より弱い生き物を殺すのは楽しいだろう?」







少年と同じように両手を血で染めた男が楽しげに言った。
黒い衣装は浴びた血が塗り重ねられた色にもみえて、気の狂った殺戮者としての存在をより鮮明にしていた。
男が長い髪を掻き揚げる仕草を少年は黙ってみていた。
少年の口が物を言わなくても、男は尚話しつづけた。








「所詮君も俺達と同じだったという訳だ。嬉しいだろ?」




「・・・・・・・・・・・・・」






金色の目が切なげに揺れて、男は少年の体を強く引き寄せた。





「もっと、殺していいんだ」




我慢することなんて何も無い。
男は猫撫で声でそういって、ほっそりとした少年の首に指を這わせた。




辺りに散らばる異形の死体。
生臭い血の香が辺りに充満してむせ返るように匂う。






「血を見るのが好きだろう?この香りを嗅ぐのが好きだろう?生き物の命が消えていく様を見るのが好きだろう?」





男は口の端に笑みを浮かべて笑いながら言った。
自分自身がそうであるがゆえに、相手にも強い同意を求める強めの声で、歌でも謡うように言った。
















「自分以外のことなんてどうだっていいさ」


















血を吐くかのような少年の言葉に、男は頷いた。











「それでいい」



















血に濡れた腕だって、大切なものを守ることは出来る











狂ったココロだって、大切な人を想う事は出来る












それだけで、いい