「あっあの・・・・・あ、ありがとうございました!!!」

ぶんっ、と頭がもげそうになるほど勢いよく頭を下げた下士官の姿は畑から見れば滑稽だったが、彼は本気だった。
妙齢の美人と何気ない会話を楽しめたのだ。
時間にして10分足らずだったが、この女性の魅力を知るには十分な時間だった。



「気にしなくていいって・・・・・・・・・あっ!ヤバっ時間に遅れる!!!」



慌ただし気に駆けていった女性仕官の姿を見続けていた下士官は、上官にこってりと絞られて減給されたとかされなかったとか。




























「遅い・・・・・・・・・・・」


低く響く声で呟かれた言葉は、この場にいる人間(ホークアイ大尉除く)の気持ちを代弁していた。
到着の報告があってから30分。
10分後には着任報告が始まるはずだった。
20分待っている・・・・・・縦社会の軍でこのような事が許されるはずも無い。

このとき、ロイ・マスタング少将の心は決まった。













『お偉方のボンボンだろうが何だろうが徹底的に潰す!!!!!











そんな上司の心の内を悟ったのか、ホークアイ大尉が冷ややかに言った。




「穏便に、お願いしますよ?・・・・・・まあ実際に会えばそんな考えも吹き飛びますけど」




少将に対していった一言よりも、一人言じみた最後の呟きが男達の気を引いた。


「それってどういうこと・・・・」

「失礼します」


コンコン、とノックの音と同時にこちらの返事も確かめぬままにドアを開ける気配。

驚きを通り越して呆れる。

そう思ったのと同じ頭の隅で、シグナルが点灯する。
やや高めのアルトヴォイス。

キイと錆付いたドアの金具が音を立て、青の軍服に身を包んだ小柄な体躯がマホガニーの机の前までやってきて敬礼した。













「今日から中央司令部配属になりました。エドワード・エルリック少佐です。」












「エド・・・・・・わーど・・・・・・・って」





情けない事に男達の顔は生気が抜けたように青くなり、言葉を失っている。
目の前にいるのは三年前、人体練成に成功し突如弟と姿を消したはずの鋼の錬金術師その人だった。
やわらかそうな金の髪、生意気そうな猫のような瞳。
ぴっちりと着込んだ軍服の肩口で金糸の髪が揺れている。
トレードマークの一つであったみつあみを解いて、肩に垂らした形。
それだけでずいぶん印象が変わるももだと、昔言った覚えがある。
しかし・・・・・・ちょっと印象が変わるとかいう時限ではなく・・・・・・。



















「「「「女あああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!???」」」」





















略式軍服ではなく、軍の正装。
それは女性仕官用のロングスカートで、目の前のエドワード・エルリックは誰が見ても立派な女性だったのだ。








「言った通りになりましたね」



ホークアイ大尉とエルリック少佐はいたずらに成功したときの子供のような目で笑いあった。
衝撃を受けすぎて石化しているメンバーをよそに、あくまでもマイペースなエルリック少佐があらためて追い討ちをかけた。








「改めて『はじめまして』無能少将?」







姿が似ていて、名前が同じだけの他人であるという可能性は問う前に本人によって無い物とされた。













波乱万丈の生活のはじまりはじまり。