「大佐、例の少佐がお見えになったそうです」
「・・・・・・・・・・・私の記憶が正しければ着任は明日の予定だったが」
「正式日程は知らされていませんでしたが?とりあえず顔を洗ってシャンとなさって下さい」
それが三日間徹夜の上司に対する言葉か・・・・・・?
目で訴えても意味のない事は承知しているが、せめてこれくらいはさせて欲しい。
大尉の言った、たった今着任したらしい少尉に関しては全くというほど情報がなかった。
誰かの後任と言うわけでもないのに、現東方司令部の最高実力者が貴重な人材を手放すとは考えにくい。
しかも地位は『少佐』だ。
ぞんざいに扱う訳にもいかないし、かといって丁重に扱う義理もない。
扱いに困りかねる・・・・・・というのが現状だ。
分かっているのは東方から移動してくる18歳の少佐ということだけ。
その外には、プロフィールはもちろん戦歴すら分からない。
しかも普通に考えれば18歳で少佐というのは異例すぎる。
部下の間で流れている『お偉いさんの御子息』という憶測はあながち間違っていないともいえる。
しかも着任日がはっきりしていなかった、これは実に信じ難いことではあるが真実である。
このようなことを部下にもらせば士気に関わるので『明日』と公表してあるものの、今週中、まあたぶんその日。
みたいな感じに言われただけではっきりとは決まっていなかった。
「五分以内に会議室に入ってください。中尉達も到着予定ですので」
「ちょっとまて、何故そこでハボック達が出てくる!?着任報告は私と君で充分・・・・・・」
「蜂の巣になりたいのでしたらかまいませんが?」
部下の仕事はつまるところ自分の仕事。
滞ればツケは自分に回ってくる。
それを考えて発言したつもりだったのだが、大尉愛用のリヴォルバーの安全装置を外す音と共に発言は却下された。
そもそも着任式なんぞ自分一人で充分だというのに、何故必要の無い人間まで居合わせなければいけないのか?
普段から無駄を嫌うホークアイのする事とは思えず、戸惑いを隠せない。
これは明らかに何かある。
それは分かっても、内容を尋ねる勇気などあろうはずもなく・・・・・・。
「分かったよ・・・・・・・・」
諦めたようにため息を吐くと、ホークアイは満足そうに微笑んだ。