うるさい喧騒の中。
キラキラと光るネオン。
酔っ払ったオヤジの千鳥足に行く手を阻まれながら、オレは夜の池袋を歩く。
この町を歩いて、知り合いに遭遇しないことはまずない。
厳密に言うなら、直接的に俺の知り合いという訳ではないのだが。
まあ、どっかで話し掛けられたりしているかもしれない。
どっちにしてもオレの姿を見て挨拶してきたり、軽く会釈してくるやつらは間接的に知り合いだということ。
これはまず間違いない。
たまに顔や名前を覚えているヤツらもいるけど、圧倒的にそうじゃない方が多い。
特に用があるわけでもないのに町をブラブラする。
一人で歩いていれば百パーセントの確立で誰かが声をかけてくるから、まあ暇ではない。
ああ、言っておくが逆ナンとかじゃなく。
間接的な知り合いはとてもじゃないが数え切れないもので、そんなヤツらが声をかけてくるだけ。
「マコトさん!!」
「一緒に飲みに行きません?」
夜なら大抵は飲みに誘われる。
それを狙って夜に出歩いているのだと言ったら、ヤツらは笑うだろうか。
曖昧に笑って、小さく頷く。
オレの思っていることが見透かされることは無いだろうが少しばかりいたたまれない気持ちになる。
何故かというと今一文無しだからである。
実際に口に出せば『気にしないでください』とか『いてくれればいいんです』とかやけに低姿勢な言葉が返ってくるだろう。
結局オゴって貰う訳なのだが。
それもこれもコイツ等のチームのヘッド(池袋の人間なら大抵は知ってると思うが)とオレがダチだからだ。
オレ自身も自分で厄介ごとに首を突っ込んで、たまに事件を解決することもあるせいか、この町では結構有名だという説もあるが。
・・・・・まあ、否定はしない。
「さ、いきましょう!!!」
なにやら嬉しそうにはしゃぐ15,6のガキがオレの手を引いた。
この年頃のヤツは良くも悪くも無邪気でいい。
そんなオヤジくさいことを思ったときに、背後で不穏な気配がした。
その気配の正体に気付いたオレはゆっくりとふり返った。
「マコト」
そいつがオレの名前を呼んだ瞬間、オレはガキの手を振り切って走り出した。
背後で『あ!』という声がしたが立ち止まることは無い。
人通りの少ない路地に入り込んで、オレは止まった。
結構全力で走ったから熱かった。
「逃げるなよ」
「・・・・・・もう逃げねえよ」
この辺一体のガキ共のリーダーで俺のダチ、安藤崇がオレの腕を掴んだ。
もう逃げないって言ってるのに、疑り深いヤツ。
「オレとは遊んでくれないクセに・・・・・・アイツ等とは遊ぶんだ?」
大勢から『キング』とか呼ばれてる歩くカリスマのくせに、不貞腐れたようにソッポをむいて情けない声を出すな。
こんな姿Gボーイズのヤツらに見られたらヤツら絶叫するぞ。
タカシはたまに子供っぽい独占欲を発揮する。
その姿がまた見てるとハラハラするので、そんな時はなるべく人のいないところで甘やかしてやることにしてる。
曰く、昔からの友達をチームのヤツらに取られたようでイヤらしい。
オレからしてみると『なんじゃそりゃ』な理由だが本人は真剣らしく、たまにオレとガキどもが遊んでるのを見ると射殺さんばかりの目で睨んでる。
タカシが不機嫌になると当然とばっちりを喰らうヤツも出てくる、そしてそいつらはオレに泣きついてくる・・・と。
だからオレがさっき逃げたのは、タカシの機嫌が悪くなる前に未然に防ごうとしただけなのだ。
だが、タカシはそんなオレのココロの内の苦労など知る由も無い。
「何で逃げたの?」
あ、結構怒ってる。
てか、泣きそう?
「・・・・・・・嫌いだから逃げた訳じゃない」
ホントのこと言うとまた怒る、だからとりあえずこれだけは言っておく。
でも口に出してからどっちでも変わらないかも、と思って内心焦った。
「ならいい」
タカシはオレの考えとは裏腹に、少し笑ってそういった。
そっけない風だったけど、なんだか嬉しそうだった。
変なタカシ。
その後俺たちは二人で朝日が昇るまで飲み明かした。
といってもお互いに限度は守って飲んだけど。
それでもアルコールが入ってほんの少しばかり饒舌になったオレの下らない話に相槌を打ちながら、タカシは一気にグラスの中身を煽った。
その仕草がヤケに頭に残った。
何時もと変わらない、なんでもないこと。
なぜか気になったのは、タカシの顔が少し寂しそうだったからだ、多分。
だってそれ以外に理由が無いからな。
ウン、そんだけ。