チリン
涼しげな鈴の音が鳴る。
「六、壱あれ欲シイ」
「あぁ?」
チリン、チリン
黒髪を肩口で切りそろえた赤目の少女が歩くたび、音が鳴る。
隣を歩く一人の青年は少女の指差す方向へと目を向けた。
「鈴だぁ?」
「鈴。おそろいガイイ」
少女は腕に括った紐に結わえた小さな鈴を小刻みに揺らした。
少し錆びて赤茶けた鈴と、小さな出店に並ぶ色とりどりの鈴を交互に見比べて青年は嘆息した。
「・・・・・好きなの選べ」
「アリガトウ」
とことこ、と雛鳥のように小走りをする少女の足取りは軽い。
嬉しそうに鈴を手にとって見る少女を見て、青年は一人物思いにふける。
つい二週間前までは、一人で旅をしていた。それがまさか二人旅になろうとは思いもしなかった。
雨の音と
鈴の音
痛みに耐えるような、声を聞いたのは一週間前。
少女・・・・・壱の妙と旅を始めてもう一週間。
長いこと叶わなかった願いが届いて一週間。
短い命を必至に生きる蝶や花のように儚い表情で、ただ生き長らえる影にはじめて逢ったのは一週間前のこと。
そう、あの日は――――――――――――――――――――――
雨宮
酷い雨の日の夕暮れだった。
子供の背丈ほどに伸びた草が生い茂る獣道を、傘の用途を果たさなくなったボロボロの番傘で掻き分けながら、六は雨の中ゆっくりと歩みを進めていた。
髪やら衣服やらが、べったりと張り付いているのを厭うそぶりすら見せない。
此処まで濡れてしまうと、かえって気にしない方が精神的に楽なことを知っていたからだ。
傘の柄は無残にも真ん中から折れており、どうあがいても濡れるのだから、出来るだけ濡れないようにするという労力や、思考すら無駄なのである。
六の歩む道は長く、見渡す限り辺りに休めるような建物も無い。
とは言っても、横なぶりの雨で視界は零に等しく、己の目といえど信用できる状態ではなかった。
それほどに天候は荒れ狂っている。
その時、ひときわ強い風が吹きつけて六は立ち止まった。風と共に雨粒が顔を打ち付ける。
雨でぐっしょりと濡れて重くなった着物の袖で顔を覆ったが、風は容赦なく六に襲い掛かる。
視界も気分も最悪の状態で苛立ちながらも立ち止まれず、誰にとも言わず小さく毒づいた時だった。
『・・・・・っテ!・・・・ヲ・・ヤク・・・・ッ・・・・ナイと・・・・・・・・』
人の声とも、風の音ともとれぬ、掠れた音が耳元を撫ぜた。瞬間、ぬかるんだ地面がぐらりと揺れた気がした。
そう思った瞬間、六は地面に倒れこんだ。
「・・・・・ってぇな・・・・・・」
流石に頭から倒れこむようなことは無かったが、ぬかるんだ地面についた手が泥まみれになった。草で切った指の傷に染みて、じくじくと鈍い痛みを発する。不快感は増すばかり。苛立ちながら上体を起こした時、足に鋭い痛みがはしった。
「なんだ・・・・?」
受身は取った。転んだ時にひねったとは考えにくい。しかも痛みの種類がソレとは異なった。
痛む右足首に視線をやると、まるで手で強く締め付けられたような跡がついている。子供のような小さな手形。赤くなるのを通り越し、紫色似変色した肌を泥の付着した手でゆっくりと撫ぜた。
〈〈雨宮の御神体の呪いが・・・・〉〉
数日前に立ち寄った村で耳にした噂話が頭をよぎり、六は眉をひそめた。止まらない雨。
いつの間にかついた奇妙な痣
―――――――――――――そして
「噂は本当だった・・・・・・か」
石造りの長い階段、所々丹塗りのはげた円柱・・・・鳥居。目の前の視界が急にクリアになる。
荒廃した寺とあちこちに奇怪に曲がりくねった巨木。
『雨宮』
この辺りに住まう人々は名も無き荒れ寺をこう呼んだ。
弧狸が住み、行く当てもない浮浪者が住み着いた。
それも魑魅魍魎が跋扈するという風の噂によって姿を消し、野生動物のみが住み着くこの寺は時がたつほどに荒れていった。
本来の名は随分前に忘れられ、雨乞いの際に祈祷に用いられたという人形が御神体として祭られているため『雨宮』と呼び名がついたが、大雨で付近の村や町が出る度に『雨宮』の御神体が原因なのだと人々は口々に叫んだ。
噂に尾ひれがついて、人形は呪わしいものだとの曰くがついたのだ。日照りから辺りを救ってくれたという昔の事を知っていた者はやがて死に、残ったのは不気味な古寺と奇怪な人形の噂話だけだった。
六が立ち寄った村ででは、もう一ヶ月も雨が降り続いていた。
言うまでもなく雨は古寺の人形の呪いだということになり、偶然立ち寄った六『妖怪』退治を頼んだ。
人形は、村人達にとってもはや恐れの対象でしかなかった。
断ることも出来た。それでも断らなかったのは、此処まで話が悪い方向に進んでいたのでは、自然災害にしろ呪いにしろ、原因を取り除かなくては村人達が納得しないと踏んだからだ。
恐怖心が生んだ偶像でも、取り除かなければ古寺に火付けでもしかけない。
そう思ってやりたくもない仕事を引き受けたのだが、確かに人でないものはいるらしい。
六が石畳の階段をゆっくりと上っていくと、だんだんと雨脚が弱まっていった。
しかも不思議なことに六の周囲だけ。どうやら、呼ばれているらしい。
カ タン
寺の戸が静かな音をたてて開いた。雨のせいで強く香る草を草履で踏みつけ、六は寺の中へと入った。
服や神からポタポタと透明な雫が垂れて、木目の床を濡らす。水はじわりと床に吸収されて、床が黒く染まる。
番傘を床に投げて、両手で着物を絞ると、滝のように水が流れ出した。
濡れた身体は随分と重い。
その上このままの状態でいると風邪をひくどころか肺炎で死にかねない。
外は、まだ雨の音が響いている。
ガタンッ、と鉄の塊でも落としたような音が耳元で聞こえ、六は反射的に腰の刀に手をかけてふり返った。
一瞬ひやりとした感覚が身体を突き抜けたが、まるでそれは空気のように溶けて辺りに馴染んだ。抜刀の構えのまま静止した六は、きっかり十秒そのままの姿勢を保ち、そして肩の力を抜いた。振り返った先には、誰も居なかった。
「ん?」
ふと、視界に白いものが入ってきた。先ほどまで、無かった物だ。
それは、真っ白な布と浅黄色の水干だった。
「・・・・・・・・・・・・」
数十秒の沈黙の後、六は布を手にとって水滴を拭い始めた。何を思ってかは分からないが、此処に澄む人あらざるモノはどうやら敵意はないらしい。
と、言うか様々な意味で奇妙である。
着替え終わって床に腰を下ろすと、無駄に精神をすり減らしていたのが馬鹿みたいに思えて、六は数日間堪えてきた眠気を一気に開放した。
『 コノコノカワイサ カギリナシ テンニタトエテ ホシノカズ ヤマジャ キノカズ カヤノカズ シチリガハマデハ スナノカズ 』
眠気が勝ったのか、何処からか歌が聞こえてきてもちっとも気にならなかった。
『 コノコノカワイサ カギリナシ テンニタトエテ ホシノカズ ヤマジャ キノカズ カヤノカズ シチリガハマデハ スナノカズ 』
繰り返される子守唄と雨の音を聞きながら、六は深い眠りについた。
声が聞こえる。
『・・・・ニ・・・ナイデ・・・・・・』
『アァァ・・・・・嫌ァ、・・・・・・リハ・・・・・嫌・・・・・・!』
それは悲痛な叫びで、いっそ狂おしいほどの嘆きだった。
姿のはっきりしない、白い光の塊は辛うじて人の形を保っている。
光が叫ぶごとに形は明瞭になり、顔のない小さな子供のような姿をとる。
長い前髪に隠れた瞳から涙を流し、最後にはこういって消えていく。
『オネガイ・・・・』
泣き咽びながら、表情のない人形のような姿のソレは何を伝えたいのだろう。
寺に留まって三日。
変化は特にない。初めて訪れた時のように時折物音がするのと、妙な幻を見るだけだ。
確かに存在する、しかし姿は見えない。
六は密封された袋に入った糒を取り出して、奥歯で強く噛み締めて咀嚼した。
そろそろ食事すらままならなくなる。
その前に、この状況を何とかしなくてはならない。
引きずり出して問答無用で消すか、それとも俗に言う平和的交渉でもしてみるか・・・・一度もしたことは無いが。考えあぐねているうちに時間は過ぎていく。
―――いっそ逃げてしまおうか。
そんな考えすら浮かぶ。
なにしろ今回のような状況に置かれるのは初めてで、対処法の見当もつかない。
敵意が有る無しの前に、姿を見せない。小さな寺の中を散策してみても、妖しげなものは何もない。
相手もこちらの出方を見ているのだろうが、こちらとしてはそろそろ飽きてきたところだ。
良い悪いに関係なく、何らかの行動を起こす時だった。
ガタンッ、バタッ・・・・・バタバタバタ・・・・・・ッ
物音。
しかし今までの中でも一番大きく、この音は・・・・・・。
「足音?」
トトトトトト
近づいてくる足音に、六は抜刀の構えを取る。
何故今になって、とか疑問は不死の山ほどあったが、精神を指先に集中させ、六は相手の出方をただ待った。
タンッ
堅い木のぶつかる音、戸が開く。
そこには心の何処かで予想していた通り・・・・誰もいなかった。
六は此処に来てからというもの半ば癖となった、大きなため息を洩らし、床に乱暴に腰を下ろす。
両腕を組んで、小声でぶつくさと姿の見えない仕掛け人に文句を言い始めた。
ギッ
耳を澄まさなければ聞き逃してしまうほど小さな音。
それは痛んだ木目の床が人の体重に軋んだ音だった。
六は気付かない。
白い手が、六の足首を掴む。
「っ・・・・・!」
突然の出来事に、六は横転しかけた。つかまれた脚には、まだしっかりと痣が残っており、強く握られて悶絶するほどの痛みがはしる。
「ってぇんだよ!!!!」
あらん限りの声で、六は怒りも露に怒鳴り散らした。それは脚の痛みから来るものでもあり、姿を見せない怪への怒りでもあった。今だ足に食い込んでいる白い指を力任せに引き剥がし、腕を掴んで自らの元へと引き寄せる。
「テメエ一体に何考えて・・」
「見ツケタ」
眼下に迫る、瞳。怒りすらも掻き消える、血のような赤。
「見ツケタ」
カタ、とからくり人形の木車が音を立てる。
「何言って・・・・」
「見ツケタ、壱を此処カラ連レテ行っテくレル人」
人形が、笑った。
リィン・・・・・
金属の鈴の音に似た、しかしソレとは違う音が耳に響く。
初夏の風物詩、風鈴売りだ。
様々な柄、形の風鈴をつるした木の櫓が一五、六の少年の肩の動きに合わせて揺れる。
揺れと風で全風鈴が微妙に時間的にずれながら、チリン、リンと音をたてる。
音に釣られたように、小さな子供達が寄って来て、揺れる硝子音を近くで楽しんだ。
「壱の妙」
六は風鈴には目もくれず、鈴選びに没頭している壱の妙を呼んだ。
「なあニ?」
濡れた鴉の羽のような漆黒の髪を揺らして、壱の妙は振り返る。手には小さな赤い鈴が握られている。
白い綿で編まれた紐を中指に引っ掛けて、ころころと鳴らしている。
「それに決めたのか?」
「ウン。六がくれたノと同じ色ダよ」
「・・・・あれは元々銀色だぞ」
「だって赤いモン」
むぅ、と栗鼠のように頬を膨らませた壱の妙の頬を六は多少の手加減でもって抓った。
口腔でくぐもった唸り声を上げながら、壱の妙は眉に皺を寄せた。
「あれは酸化して変色したんだ」
「・・・・・・サンカ?」
「雨で錆びた」
「・・・・ゴメンナサイ」
がっくりと項垂れた壱の妙を見て、六は肩を小刻みに震わせて笑った。
「笑っちャダメー!」
「へいへい。鈴、買っといてやるから風鈴でも見て来い」
「ハーイ」
リン、リィン
涼しげな音、夏の音が響く。
晴れやかな空を仰いで、そして笑った。
それは大して珍しいことではなかった。
戦で夫を無くし、貧窮に喘ぐ妻が自らの子と共に心中を図る。
女一人と幼い子供のみ、ろくに金も無く生きていくには世間は厳しすぎた。
『ゴメンナサイ、私たちはね、生きていけないの。一人きりでは生きていけないの』
泣く母を、子供は虚ろな瞳でみていた。痩せ細った指先で、涙を拭う。
『ゴメンナサイ、ゴメンナサイ』
振りかざされた短刀を、綺麗だと思った。
その光景が彼女にとっての最後で、新しい彼女の始まりだった。
暗イ、闇
『お、成功か?目ぇ開けな』
目ヲアケル?
コレハ闇デハナイノ?
イマハ夜デハナイノ?
『夜どころか正午だぜ。太陽が眩しい位だ』
太陽、言葉に反応して目を開くと明るい光が差し込んだ。
『・・・・・・痛イ』
『眩しいか?少しぐらいは我慢しろよ』
『・・・・ダアレ?』
『神』
答えは簡潔だった。
『お前にはやってもらうことがある』
『何ヲ?』
尋ねると神は少し悲しそうに笑った。
『・・・生まれたばっかで悪い、でもコレが終われば・・・・・・』
聞こえない、思い出せない。
あの時、あのヒトはなんと言った?
一体どのくらい前のことだろう。
死んで、生まれて、そしてワタシは・・・・・・・・・・・・。
「お前は・・・・・・・・・」
六は言葉を一旦切って、それから苦いものを吐き出すように言った。
「母親に殺された子供なのか?」
人形に語りかけて、六は間を取り繕うかのように刀の唾を指でいじった。
「違ウヨ、壱は壱」
幼子のような返答に、六はため息をついた。
「壱ハ雨人形、壱ノ妙」
自然による大災害。それを静めるためだけに神に作られた人形。それ以下でも以上でもない。
心にわいたのは哀れみとかすかな怒り。前者は目の前の人形に対して、後者は道具を利用するだけ利用した神に対して。
「此処ハネ、雨ガタクサン降ルノ。水神サマが怒ッチャッタの。デモ、ソウシタラ人が困ルカラ、壱ガイルノ」
「・・・・・・・今降っている雨はその反動か」
人身御供にされた人形。水神の怒りを静めるための人形。それでも溜まりに溜まった瘴気は完全に消すことは出来なかった。
「壱ハズット待ッテタ。自分ジャ出ラレナイカラ、待マッテタ」
此処ではない、何処かへ連れて行ってくれるヒトを。何年も、何十年も。
「・・・・・・・・・帰る」
「エ?」
言うが早いか、六は駆け出した。壱の妙の前から、古寺から。
「マッテ!」
悲痛な声を聞いて尚、六は足を速めた。
逃げ出したかった。この場所から、あの『少女』から。
胸が苦しい。いたたまれない。この気持ちは何だ、気持ちが悪い。
胃の辺りがムカムカする。
あの日、村長から依頼を受けた。
『あの人形はもう御神体ですらない、ただの呪い人形です。どうか、壊してしまってください』
そのあと自分は返事をした。
ああ、と頷いた。だから自分はあの(人形)を壊さなければいけない。殺さなければいけない。
今までに、妖を消すのにこんなに躊躇ったことは無い。
殺したくないと、思ったことは無い。
「・・・・」
息が苦しい。石畳の階段を駆け下りて、そのまま地面に座り込む。雨が、容赦なく降り注ぐ。
戸惑っている。何に?罪も無い哀れな存在を消すことに?
―――――――それとも消したくないと思っている自分に?
「オレは・・・・・・」
ザアアアアアアアア、雨が雨雲を呼ぶ。
「お前を連れてってやれない」
『雨人形壱の妙』を消さなければならないから。
「連れて行けない」
物語のお話のように、捕らわれのお姫様を連れ出すことはできない。
「ゴメン・・・・・・・・」
天を仰いでも、雨が降るばかり。
まるで涙のように、水滴が頬を伝った。
『連レテッテ!!!!』
人形の白い肌を、雨が伝う。
泣ける筈もないのに、涙のように降り注ぐ雨は止まない。
『オネガイ、ヒトリニシナイデ。連レテッテ』
生まれた時、一人で、それからもずっと一人で。でも知ってしまった。子守唄を聞いて眠る横顔。
悪戯に怒る顔、悔しそうに、つまらなそうにため息をついて。
困った顔も、自分にはできなかった。
『私たちはね、生きていけないの。一人きりでは生きていけないの』
そうやって、その言葉の意味を初めて知った。
『連レテッテ!』
壱の妙の体が、フワリと浮いた。長い石畳の階段から、飛び降りて。
「・・・ッ!」
反射的に体が動いた。
『出られない』のだといった。身勝手な神のせいで出られないのだと。
無理に出ようとしたらどうなる?壊れてしまうのか、消えてしまうのか。
そう思ったら、頭が真っ白になった。
「壱の妙!!!!!」
ストン、とまるで吸い込まれたかのように、壱の妙は六の腕の中へと落ちていった。
「痛い・・・・・」
「壱の妙!」
座り込んだままの体制で、六は壱の妙を抱きしめた。小さく、柔らかい体は温度が低い。
「え・・・・・・・・・?」
「お前・・・・・・・・体」
抱きしめた。『人間』と同じように、微かにだが、温かく柔らかいからだ。
腕の部分、球体間接ではなく滑らかな人肌。
泣く事の出来るからだ。
頬を伝う、暖かな涙。
「連れテッテ・・・・・・」
かくん、と腕の中に倒れこむ壱の妙を六は強く抱きしめた。
儚く、消えてしまいそうな声。
この小さな存在を見失わないようにと、六は昏々と眠る壱の妙の指に、小さな鈴を握らせた。
「ああ・・・・連れてく」
もう、どうでもよかった。
この存在が自分の傍にいてくれるなら、神とだって殺しあえる気がした。
雨は、止んでいた。
「六!六!」
ぴょこぴょこ、かえるみたいに壱の妙が跳ねて、手招きしている。
「ホレ、鈴」
小さな鈴をひょいと投げてよこし、壱の妙はそれを片手で捕らえた。
「コレハ壱のじゃなくて六ノダヨ!」
「は?」
「壱のはコレ!」
手首に紐で括った鈴が小さく鳴る。錆びて赤茶けた鈴は音が小さい。
「コレガいいの!」
壱の妙はあれからよく笑って、怒って、泣く。
「・・・・そうか」
リィ、リン
鈴の音がする。
リン、リン
二つの赤い鈴と、青く晴れ渡る空がいつまでも二人を見守っていた。
了
蛇の足
「フゥ、貴方ももったいないことをなさる」
「何が?」
「私でももうあれだけの傑作を作ることが出来ないと思うほどだというのに・・・代償もなしにあっさり手放すというのは少々不快です」
「あれは元々期間限定のつもりだったって言っただろうが」
「自分がこの土地の水神に喧嘩を売った癖に何を仰るやら」
「・・・・・・・・・うるさい」
「挙句罪も無い子供をたぶらかして・・・・・・全く、こんなのが神とは嘆かわしい」
「たぶらか・・・っ、お前も共犯だろうが!大体こんなのとは何だ、神に向かって!」
「本当のことを言ったまでです」
「・・・・・・っこのエセ紳士!」
「なんとでも仰って下さい」
「クソッ、もうオレは帰るぜ。アイツ等見てると口から砂吐きそうだ」
「それは同感ですね。それではそろそろ帰ると致しますか」
完