「・・・・・・・・・暑い」
「言葉に出すと余計に暑く感じられますよ」
「暑いものは暑いのだから仕方が無い」
秋は本の乱雑した座木の部屋のフローリングに寝転がっていた。
本を読んでいた座木は視線を活字の海から外して、真っ白な脚を惜しげも無く晒す秋を見やった。
日本は湿度が非常に高いため、窓を開けても暑さが紛れることは無い。
アジア特有の気候に故郷が懐かしくもなるが、あと一時間もすれば日が暮れる。そう思えば幾分気持ちが楽になる。
太陽が落ちれば当然気温は下がるし、それなりに涼しいのだから我慢すればいいものを。
「大体この猛暑に長袖を着るな、暑苦しい」
視覚的に暑い、と形のいい眉を思い切りひそめられて座木は苦笑した。
「私がラフな格好をしていると変な感じがするといったのは秋でしょう?」
「でも暑いんだから仕方が無い」
先ほどと同じ言葉を繰り返し、薄い詩集を手に取ると秋はパタパタと扇ぎ始めた。
生ぬるい風がなんとも言えず気持ち悪い。
「暑い」
「下に行けばいくらか涼しいでしょうに」
「・・・・・・・・・・今すぐアイス買いに行け」
「はいはい」
ああもう、本当にあついんだから。
日本の夏も悪くない。
何処かの家でチリン・・・とガラスの音が鳴る。
この場所で、あの人と過ごす、もう数えるのも面倒なほどの夏。
来年も、どうかこのままで。