片手に銃を、殺戮を。

片手に優しさを、慈しむ心を。



こんなにも愛しいのに、胃の奥からせり上がってくる破壊衝動を押さえることが出来ない。
紅茶色の髪のシスターが、絶望と恐怖の表情を浮かべて涙を流した時。
寂しさと孤独と、至上の喜悦が生まれた。

欲しい、血が欲しい。

心の中で何度も叫んで、何度も否定した。
相反する感情が同時に心に染み付いた。

殺したくない、傍にいたい。

人が好きだ。
人が微笑むのを見るのが好きだ。
笑って、笑って、そしてどうか気付かないで。
心の奥で殺戮を求める確かな自分の一部。
仮面をかぶって、愚かな人で有り続ける汚らしい自分に気付かないで。
大好きな、人間が楽しそうに笑う。
自分も、笑う。
その度に心が痛む。
『痛い』だなんて、感情を覚える資格すらないのに。
笑いかけてもらえる資格なんて、ないのに。

それでも、笑うから。
自分もそれを促す。
痛みを感じなら、共に笑う。







甘い紅茶の香りが狭い部屋に充満する。
焦点の合わない瞳で、角砂糖をカップに放り込む。

「ナイトロード神父、糖分の過剰摂取は身体能力に支障をきたす。さしあたりそれは・・・・」

「明日の任務に支障をきたす・・・・・ですね」

何時ものように、ゆったりとした口調でもなく、時折見せる鋭い言葉でもない。
アベルの色のない口調にもトレスの様子は変わらない。


「肯定」


0と1。
肯定か否定。
機械故の単純で明快な思考。
感情線はフラットで表情の変化もめったにない。


彼は、笑わない。


幸せそうに微笑まない。
傍にいても、心を刺す痛みはない。


無意識に働く自傷好意は、彼の傍にいるときのみ活動を停止する。
利用している、罪悪感が募っても傷つくことは無かった。



傷つけない、傷つけない。
だから、お互い傍にいる。




これが一番の自傷行為だと気付くのはまだ先の事。
今はただ、血に酔って毎晩悪夢に魘されるのみ。





片手に銃を、殺戮を。

片手に優しさを、慈しむ心を。





闇の海に浸りながら、今日も普段どうりに生きる。

悲しみ、傷つきながら。