「っねえ、大佐ぁ・・・もう俺我慢できな・・っん・・・」
「だめたよ、鋼の。約束しただろう?」
「でもぉっ・・・・・」
焦ったような、どこか熱っぽい声
真昼間に東方司令部執務室から漏れ聞こえてくる声は、どう考えても・・・任務報告に来た者と受理するもののソレとは思えない。
例えるなら、久々に会った恋人との情熱的な情事・・・・というかそのままなのである。
お茶を片手に執務室のドアをノックしようとしたホークアイ中尉の手が空中で静止したのも致し方ないことだった。
上司、ロイ・マスタング大佐が鋼の錬金術師ことエドワード・エルリックに並々ならぬ想いを抱いているのは、東方司令部に居る者全員の知る所であったが、齢12で国家錬金術師となった彼の思い人には知られていない・・・・、
むしろ態度があからさまにも関わらず気づいていなかった。
東のミニマムマスコットとして影でアイドルのように人気絶頂中の看板を(知らずに)背負っているエドだったが、
大佐の必死のアプローチにも全く気づいていないようで、最近はエドワード親衛隊(仮)達と大佐の死闘も久しく見ていない。そんなことが身近に起こっていながらも気づかないのだからある意味凄いが・・・・。
まあ、そんなこんなでいきなりこんな如何わしい・・・もとい常識ハズレの会話内容が繰り広げられる訳も無い。
しかも繰り返すようだが此処は東方司令部執務室である。
それなりに付き合いの長いホークアイ中尉の観察眼によると、エドワードも大佐を好いている。
が、持ち前の特別天然記念物並みの鈍さを誇るエドはそんな自分の気持ちにも気づいていない。
結果:『幻聴である。』
日々の疲れか・・・とため息をつきながらドアノブを回そうとする
「もうっ・・・・・がまんできないってばぁ・・・・・!!」
耳に入ってきたエドの引きつったような声を聞き、ホークアイ中尉は再び静止・・・・というか石化した。
(まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか・・・・・・)
同じ言葉を繰り返しながらホークアイ少尉の頭はフル回転していた。
あの究極にぶにぶエドと究極ヘタレが私の知らない間にくっついて、あまつにゃんにゃん(古)しているなんて絶対、絶対ありえない。
しかも幻聴ではないとすると、嫌がるエドを無理やり●●し、体を●●に●●さ●●●させたあげく、●●や●●●などを●●●で●●して・・・・・・
「中尉、何やってンすか?」
「!!」
ドアノブに手を掛け、険しい顔でなにやらブツブツ呟いているホークアイ中尉を発見してしまったハボック少尉が声をかけたことで危険な想像(妄想とも言う)から開放されたホークアイ中尉の行動は早かった。
早急に今後の措置を考え、実行に移すべくカップの二つのったお盆を素早くハボック少尉に手渡す。
「は?あの・・・・・中尉・・・?」
困惑しつつも中尉が鬼のような形相だったのでそれ以上居えず少尉は押し黙った。
ハボック少尉が嫌なオーラを感じ取り、大量に冷や汗を掻きながら見守る中、ホークアイ中尉は懐から私物と思しきべレッタを取り出し突入した。
「大佐!!!軍人としての誇りを棄てて少年法に触れるような行動を起こすのは止めてください!!!!」
同時に最強中尉のべレッタが唸る
ドヒュン ドヒュン ドヒュン
銃声が響き、開け放たれたドアからはハボック少尉が青い顔をだしている。
ことが呑み込めず、ただ目の前の光景を見るのみ。
だがことが呑み込めていないのはハボック少尉だけではなかった。
「・・・・・あの・・・・ちゅ、中尉・・・一体ナニゴト・・・・・・・?」
そこにはあられもない姿で虚ろな瞳いっぱいに涙をためたエドの姿が・・・・・・
無かった
「エ、エドワード君?」
視線の先にはいつも道理の黒い服に赤のマントを着込んだ少年の姿があった。
あえていつもと違う所を指摘するなら、いつもみつあみにしている髪がおろされていることくらいだ。
ソファーにちょこんと座っている姿はいつも道理可愛らしい。
やはり幻聴だったのか、たったまま白昼夢をみていたのか、当人に聞く以外にそれを知る方法も無い。
「エドワード君・・その・・・何、してたの・・・?」
「?大佐が髪いじらせろって言うから・・・・いじらせてた。」
「大佐がか?」
部屋に入ってきたハボック少尉が尋ねる。
「うん。でもそれがくすぐったいのなんのって・・・我慢の限界だっつーのに聞かないし」
「そりゃまた、なんでそんなことを」
タバコをぷかぷかフカシながらエドの隣に座ったハボック少尉は間抜けに床に倒れ付した上司をジト目で見ている。
「資料の礼。等価交換だからって・・・・」
「はあ・・・・ナルホド・・・・」
じゃあなにか?この間抜け・・・いや、無能上司は好きな相手と密室で二人きりになりながらも、相手の髪の毛いじって幸せモードで仕事をサボったということデスカ?
ちなみに、部屋の隅には書類の山が・・・・・・・。
「ああ、そうですか・・・・・・・・・・・・・・」
ドヒュン ドヒュン ドヒュン ドヒュン ドヒュン ドヒュン
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
コツ、コツ、コツ、とどんどん小さくなっていく足音を聞きながら、残された男三人は何がなんだか分からないながらも、中尉には死んでも逆らわないようにしよう、と心に誓ったのであった。