人とは何だ?
生きているとはどういうことだ?
自問自答しても、答えを得ること叶わず。
得たのは孤独と絶望だけだった。
今、こうして生きていることすら奇跡のようで体温の無い手を握り締めた。
冷たさを感じることは出来たけれど、自分が『生きている』証が欲しくて何度も手首を引き裂いた。
流れ落ちる血を見、まだ自分が生きていることを知った。
痛みを感じないわけではない。
それでも確認したかったんだ。
まだ、あの人との共通点があることを。
あの人と同じ色の血を流しながら、ただ思ったのは何よりも愛しい白金の魂。
太陽のような輝きを宿した、かけがえの無い命。
乾いたこの大地に佇む、愚か者に差し出された手は眩しすぎて吐き気がする。
・・・・・・・・大切な、貴方。
血呪
粒状に散った砂埃が乾いた風に巻き上げられる。
空気を吸い込むと咽元に差すような痛みが生まれた。
息をするのも億劫で、いっそ死んでしまえたらいいと思った。
腰をおろした木製のイスはギシギシと軋んだ音を立てて、少し力を入れれば壊れてしまいそうだ。
まるで今の自分のようだと自嘲する。
愚かなのは己自身。
自ら選んだ道をただ歩んでいるだけ。
血と、自身が選んだ名の宿命ともいえる因果を断ち切るために選んだ道だ。
愛する物を守るために選んだ道だ。
今でもまだ思い出せる。
声、表情、仕草。
夜の闇よりも暗い漆黒。
暖かな光を抱いた闇だ。
生まれ出る前から王たる資格をもった純粋すぎる魂は、今も昔も愛すべき物だ。
何に変えても守るべき、その魂は今傍らに無い。
あの笑顔が、見えない。
もう何十年も前に通り過ぎた筈の激情が、胃の奥からせりあがってきた。
怒りなのか、悲しみなのか、ただ膨らんでいく感情には名前が無いように思えた。
立てかけてあった剣を手にとって、ゆっくりと鞘を引き抜いた。
冷たすぎる刃が肌をすべる。
自らに流れる人の血に決着を。
懺悔も、後悔も、その後だ。
「いつか」
血に濡れた偽りのこの手で迎えに行く、その日まで。