さわさわと音を立てる木々。
新緑色の葉が舞った。
緑新風
それは確かな春の芽吹きだった。
もう何度この国で春を迎えただろうか。
片手では足りないくらいの年をこの土地で過ごした。
始めは戸惑ってばかりだったけれど、何年か経ってしまえば政務も中々面白い。
どんな風にサボろうかと下らない考えを起こすくらいには余裕も出来た。
小さな戦争や抗争は起きるけれど、ここ数年は平和と言っても偽りではなかった。
他国との公約、条約。
全部が全部綺麗に終わったわけじゃない、要するに腹の探り合いなんだけど。
まあとにかく、昔はイロイロあったけどそんなこんなで今は平静が保たれている。
相変わらず魔族を厭う人間や、人間を憎む魔族も居るけれど数は減ったと思う。
「陛下」
あ、そうそう。野球人口も着実に増加中。
小さい子供達が野球道具持って外で元気に遊べるって良いことだよな。
もちろん自分がそうだったから、とかでなく。
笑顔でいられるのが一番。
・・・・・て、俺は最近トレーニングも満足にしてないんだけどな。
国交とかの書類ってなにかと面倒だし。
「陛下ってば・・・・・・・」
まあちゃんと読み書きも出来るようになったし。
あとはひたすら肩と腰の痛みに耐えるのみ。
あー、もう本当に王様って大変。
「・・・・・・・・・・」
眞魔国の春は綺麗だよ。
戦争とかの問題が減った分、予算とかに余裕が出来ちゃったりして。
花とか植えてみたりするわけよ。
赤 青 黄 白 エトセトラ、エトセトラ
すっごい綺麗。
グウェンとかにはものすんごい渋面で睨んだりされたけど、ヴォルフラムは賛成してくれた。
わがままプーが最近ではちょっと大人になったみたいだな、ちょっと角が丸くなったって言うの?
相変わらず俺はへなちょこ呼ばわりだけど。
風に乗って花弁が舞う。
ひらひらひらひら舞って、外に散歩に出ると知らぬ間に服にはっついてたり。
絢爛の春、と言っても遜色のないほどに。
今年も、眞魔国は花の香る季節を迎えた。
この国の王で本当に良かったと思う。
そう思える、幸せ。
でもそれ以上に。
「・・・・・・ユーリ」
暖かな春の日に照らされて、眩しい位の笑顔が目に飛び込んでくる。
草の上に寝転んだ俺を覗き込むように、手を伸ばして笑った。
「そろそろ戻ろっか。ギュンターが泣き喚いてそうだしさ」
帰ろう。
温かい場所。
守るべき場所。
大好きな人たちの、もとへ。
「かえろう」