どうしても消えない証が欲しかった。
寂しそうに笑って、そうやって消えていく姿を見ながらいっそ死んでしまいたくなる。






「ごめんなさい」






何度も繰り返す謝罪の言葉は、否応無しにオレの頭の中をひっかきまわす。
ぐちゃぐちゃで、何も考えられない。
こんな顔をさせたくないと思った。
でもそうさせているのは自分で、更に嫌な気分になる。
不快指数は増すばかりだけど、たとえ裏切られても傍に居たかった。
かなわないのならせめて、少しでも長く傍に居たかった。







「・・・・謝るなよ、お願いだから」







コンラッドは何も話してくれない。
魂が抜けたように護衛もつけずにフラフラと歩いていると、必ずといって良いほどコンラッドは現れた。
もう、コンラッドの守る物は自分ではないのに。
『危ないですよ』なんていって、崩れ落ちそうになるオレの身体を抱きとめた。
近くで感じる温もりに安堵しながらそのまま眠ってしまったこともある。




ちゃんと生きてる。




それを感じると、もうどうでもよくなった。
本当はずっと傍に居て欲しいけど、生きてくれているのならそれだけでいい。
下らない戦いに身をおいて、死んでしまうのはイヤだ。
せめて生きていてくれれば、魔族なんだからいくらでも人生をやり直せる。
彼には時間が有る。
考え、悩み、生きて新しい人生を歩む事だってできる。
国を離れたコンラッドはもう一緒に隣を歩いてくれないかもしれない。







「オレはコンラッドが生きてくれてるだけで嬉しいよ」







いつか言った言葉を、自分に言い聞かせるように呟いて目を閉じた。
不覚にも泣いてしまいそうだった。
欲しいのは謝罪の言葉なんかじゃなくて、笑顔だった。







「ねえ、笑ってよ・・・・コンラッド」







泣き笑いの表情で、コンラッドのの目を見つめた。
一瞬困った顔をして、すぐあとに悲しそうに笑った。







「ユーリ・・・・・・」








鼻頭をコンラッドの胸に押し付けて、そのまま体を預けた。
眠ってしまえばいい。
朝起きたら、全部夢だと思えるから。
ただの下らない願望だと、思えるから。




昔一緒に見た青い空は、きっともう二度と見られない。
ゆっくりと底闇に沈んでいく意識の彼方でそう思った。
もし・・・・もしもう一度あの空を見られるのなら・・・・・・。















「ごめんなさい、ユーリ」

















オレの大好きな優しい笑顔で笑っていて欲しい。














どうしても消えない証が欲しかった、彼が自分の傍に居たという証。
自分と彼がともに生きていたという証。


闇色の空の下、流れる星に願いをかけて。