誰にも知られずに静かに蕾を膨らませて少しずつ開いていく。
誰にも気付かれずに静かに花開き、終わりのときを待っている。
生きながらにして、死ぬ時を待っている。
その事実が、花をより一層美しいものとする。
朝露に身を濡らし、ゆっくりと意識を覚醒させる。
それは、夢の後のまどろみにも似て。
人の夢
太陽の光を浴びながら、あたたかな風に吹かれ目を閉じた。
しっかり十秒経った後に目を開けて、小さく欠伸をした。
心地よすぎて、なんだかおかしくなってしまいそうだ。
大樹に背中をあずけ、伸ばした足元に鮮やかな赤の蝶が一匹止まった。
羽をゆっくりと動かす、その動作がずいぶんと可愛らしい。
季節感あふれるこの国は、贔屓目に見てもすばらしいと思う。
流れる小川の水は冷たいけれど、色とりどりの花はゆっくりと風に泳いでいる。
小高い丘の上からは、街に住む人の日々の営みが伺える。
市場では常に値切り交渉に励む主婦と店主のかけあい。
それと時折喧嘩の声。
元気一杯な子供たちが遊ぶに励む。
やっぱり時折喧嘩が起きて、泣き声としかる母の声。
わんわん泣いて、それから笑って。
また何事も無かったかのように一緒に遊びはじめる。
子供は国の宝と言うけれど、まさにそのとおりだと思う。
「精一杯、楽しく生きろよ」
暖かな光の元、小さく開いた口から漏れたのは願い。
胸の奥でズキズキと疼く痛みが、広がって。
この願いが届くことだけを祈って。
自らと同じ轍を踏むことのないようにと。
大切な物を見失わないようにと。
守っていこう、この国を。
守っていこう、彼が何よりも愛した国を。
もういない彼のため自分に出来るのはそれだけだから。
もう いない かれの
ゴツゴツとした大きな手が頭を優しく撫ぜる、その仕草。
優しい目が、まぶしそうに太陽を見つめる彼が・・・・。
思い出して少しだけ、泣きたくなった。
花は咲くために生まれ命の限り、惜しみなく咲き。
潔く散っていく。
咲き誇るが花。
萎れてもなお花。
ただひとときのためだけに咲く。
たとえあなたが気付かなくても。
ひとり、静かに、ひとり、儚く。
丘に咲き誇る大輪の赤い花。
名前は知らない。
此花の下には、大切なものが埋まっているんだ。
何よりも、大切なものが。
だからこれは墓標。
この赤い丘は、自分だけの場所。
「『笑って下さい』って、いったもんな」
だから、笑うよ。
この場所で。