さて、時は過ぎ―――。
魔王陛下親衛隊(仮)と瀕死の体に鞭打ったグウェンダルが城中を探し始めて早三時間半。
もちろん城下も探したが、どうにもこうにもみつからない。
ユーリ禁断症状が出だしたギュンターはもはや魂が抜けかかっている。




「なぜこれだけの人数で見つけられないんだ!!!」



「そりゃあ、アニシナですから」




わがままプーの力の篭った言葉は、コンラートの発した1単語でみごと沈められた。





「一体何処こまで非常識な行動を起こせば気が済むのか・・・・・・」




幼馴染の奇行になれているであろうグウェンダルですらこころもち顔が恐怖で青ざめている。
何をされたのかは不明だが、城の医療班によると



『閣下でなければ一ヶ月は床で臥せって微動だにできなかったでしょう』



だ、そうだ。
グウェンダルはこのうえなく優秀なギュンターの養女に心の底から感謝したが、事の顛末は頑として話そうとはしなかった。





「〜〜〜〜っとにかく、もう少し探してみよう。もしかしたら僕たちの知らない間に隠し部屋でも作ってるかもしれない」


ちょっとばかり常識を逸脱したヴォルフラムの発言は、笑って冗談に出来なかった。
ギュンターなんて元々白い肌を紙のように白くさせてフラフラとおぼつかない足取りで辺りを彷徨っている。


「・・・・彼女ならもうなんでもありそうですしね」


だってアニシナだし。



空間と空間を繋ぐというイロイロな法則を無視した開発をするくらいだから、城中の人間に気付かれずに隠し部屋を作るくらい簡単だろう。
各自がため息をつきながらバラバラに散っていく。
・・・・どうして身内のせいでここまで切迫した事態を起こせようか。
眞魔国の目下一番の問題は戦争や外交問題ではなくフォンカーベルニコフ郷アニシナなのかもしれない・・・・・。












皆が城中を探し回る中コンラートは流れる雲を目で追いながら馬屋に向かった。
もう城内で自分の思いつく限りの所は探した。
そうなれば後は外でユーリと出かけた場所をしらみつぶしに探すくらいしか自分にはできない。
確かにアニシナはある意味危険人物だが、ユーリをさらってどうこうする気はないだろう。
おそらく日が暮れる頃にはケロッとした顔で戻ってくるだろうが、彼の婚約者とアニシナの被害を被った長兄・・・そして陛下命の王佐は平常心ではいられないだろう。
ユーリはアニシナにそれほど危機感を感じていないようだし、大丈夫だとは思うのだが・・・・。



「・・・・・・・心配だ」




これでも自覚はある・・・名付け親バカだと。

それ以上に自分にとってのユーリは特別な存在だし、急に居なくなって心配しないはずは無い。
そう思ったらやはり急がずにいられなくなって、足早に大地を蹴った。


ほんの少しの間はなれていただけでこんににも不安になるのなら、ユーリが地球に帰ってしまったら一体どうなってしまうだろう。
此処数ヶ月、ユーリはずっとこちらに居るしそれが普通なのだと思っていた。
皆も同じ気持ちだろう。

だからこそ、それを失うのが怖くなる。
いつも通りに笑ったり、怒ったり。
そんな幸せな日々を過ごしているから気付かなかった。
子供じみた独占欲、片時も離せないあの笑顔を。
そこまで考えて、ふと気付く。





「馬鹿みたいだ」








重度の、ユーリ馬鹿。
あの無邪気な笑顔をずっとみていたかった。
一度意識したら、あとは坂を転がり落ちるようにあっという間。




好き。




ただ、それだけのこと。
他の理由なんかないじゃないか。



立ち止まってゆっくり周りを見てみれば、ちゃんと遠くまで見通せるのに。
焦りすぎて、そんなことすら忘れていた。

静かに息を吐く、目を閉じてもう一度開ける。






「ユーリ・・・・・・・・・・・」






空を仰いで、呟くように名前を呼んだ。
















ヒュルルルルルル・・・・・・・・・・・・・・





















「え?」









風を切るような落下音。
一瞬視界を小さな影が埋めつくし、次の瞬間にはポテッ・・・・・という間抜けな音とともに地に落下した。
足元に転がる小さな物体。
コンラートはそれを拾い上げて三百六十度、様々な角度からしげしげと見つめた。





「くまハチ・・・・・・・・・?」





の、あみぐるみ。
しかもグウェンダルよりも数段上手い・・・・というか忠実に似ている。




「なんでこんなものが・・・・」



コンラートは突然の予想だにしない出来事にあっけにとられつつ、宙に視線を彷徨わせる。
空から降ってきたあみぐるみ、その落下元は・・・・・・。











「!・・・・・・・まさか」











コンラートはあまりあたっていて欲しくない予感を胸に抱えて、城へと駆けていく。


馬屋を見下ろせる高い位置にある部屋の窓がカタリ、と音を立てた。



そこから



覗いたのは、燃えるように赤い髪。
この騒ぎの、現況の姿だった。