「へぇ〜〜〜〜〜い〜〜〜〜〜〜くゎ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」
血盟城に響く無気味な声、第二十七代目魔王である渋谷有利に命を捧げたギュギュ閣下は今日も絶好調。
ありとあらゆる場所から液体を精製し、放出しつつ大驀進中である。
顔だけ見ていれば目も醒めるような美形であるのにもったいない・・・とは彼の愛しい陛下のお言葉である。
齢百を越えつつも、今日も異常なまでに高血圧だ。
「ギュンター」
「はっ!?コンラート、陛下を見かけませんでしたか!?」
目を少し血走らせながらコンラートの襟首を揺さぶっていっている様はいつもより四割増位激しい。
鼻息が荒すぎてどこぞの変質者みたいだ・・・・というか変質者だ。
新入りの女中が顔を青くしながらじりじりと後頭去っていく。
可哀想に・・・いつかは慣れるからとはいえ少なからず心に傷を負ったはずだ。
コンラートはだんだんと小さくなっていく女中の姿を見送りながら、ギュンターを宥めにかかった。
「見ていないが・・・陛下がどうかしたんですか?もう勉強の時間も終わったでしょうに」
長時間イスに縛り付けられていたユーリが城をうろつき回るのは日常茶飯事でおかしなことはない。
ギュンターがこういう状態に陥るのも茶飯事といえばそうだが、今日の取り乱しっぷりは凄かった。
「どうもこうもありませんっ!!!陛下が・・・わたくしの陛下がっ、こここっこっこ・・・・」
「こ?」
鶏だろうか?
「こともあろうにあのアニシナと二人で何処かへ消えたとっ・・・・・!!」
ギュンターは言い終えると体中の力が抜けたのか儚く床に倒れた。
ヴォルフラムと二人で出かける・・・・というか一方的に振り回されることは良くあることだが・・・・。
「あのアニシナと・・・・ですか?」
「毒女アニシナ以外どのアニシナが居るというんだ!!!!!」
「あ、ヴォルフラム・・・・」
こちらもまた異様なまでにテンションの高いコンラートの弟は、地に倒れ伏したギュンターを踏みつけた。
どうやら回りのことが全く目に入っていない様子だ。
最近益々長兄に似て眉間の皺はどんどん深くなっていっている。
秀麗な顔が怒りに歪むのはまた美しいが、この場にそんな事を気にする者は誰一人としていなかった。
「コンラート、お前本当にユーリを見ていないんだな!?」
「嘘をついても仕方がないだろう・・・それより陛下がアニシナと消えたというのは本当か?」
もしそれが本当なら由々しき事態だ。
あのアニシナに捕まって下手な実験の練習台にでもされたら・・・・考えるのもおぞましい。
とりあえず五体満足で帰ってきてくれればいいのだが。
「本当だ。兄上が自室で倒れていて、うわ言のように『あの魔女が・・・ついには小僧誘拐を・・・・』と言っているのを女中が発見した」
「・・・・・・それはまた」
とてもじゃないが失笑で済まされるレベルではない。
「警備の兵士がアニシナに抱えられたユーリを見たとの証言があったんだが・・・・・」
「あ、アニシナのあまりの恐ろしさに暫く放心していたそうで・・・」
ギュンターがヴォルフラムの足をのけてずりずりと匍匐全身して言葉を続けた。
警備兵も情けないといえば情けないが、高笑いを揚げながら陛下を担いで爆走するアニシナを見たのでは無理もない。
「とにかく早期に発見しなければユーリが危ない!!コンラート、お前も手伝え」
「ああ・・・・・・」
一応身内だろうが・・・・・アニシナはある意味何よりも脅威だ。
そのことを再確認しつつ、彼らは主君を探すべく城を探し始めた。