窓から吹き込んでくる冷たい夜風が頬を撫ぜた。
夜の闇と正反対の色を持つ髪がサラサラと流れる。
気付けば、髪も随分伸びた。
背だって伸びたし、力もついた。
まだ一人前の大人とは言い切れないけれど、幼い子供でもない。

もう、子供ではないから。
















「ウソツキ」

簡素な教団の自室でベッドに横たわり、アレンは目を伏せて呟いた。
部屋には誰も居ない、ただの独り言だ。
目の端でティムキャンピーが飛び回っているが、勿論何の反応も返さない。
開け放たれた窓から覗く月だけが寂しげに輝いていた。
明りもつけず、真っ暗な部屋の中で更に両手で目を覆った。
瞼の奥がじんじんと熱い、目を閉じているのに目の前がチカチカする。

夢を、見たかった。


叶わないなら、夢だけでいい。
それでもいいから、昔のように幸せな『夢』が見たい。

沢山の仲間がいるこの場所で、自分は孤独ではなくなった。
大切なマナを自らの手で壊してから心に住み着いていた絶望も、孤独も、消えうせたはずだった。
そんな自分で作り上げた悲しみの世界に浸っていられるほど自分は愚かではないと思っていた。
けれどそれらは全て過去形で、ふたを開けてみれば何の解決もしていなかったんだ。

優しくしてもらいたい、その形はなんだっていいんだ。
同情でも、憐憫でも、別に本物でなくたっていい。
だから、だから、そばに居て欲しい。
そばにいて、そばにいて。
眠りについて、朝がくるまで、何処かへ行かないで、ずっとそばにいて。
そんなことばかりがグルグルと頭の中で廻っている。
もう子供じゃないんだから、昔みたいに甘えていられない。
助けて欲しくても、縋ってはいけない。
あの言葉はもうもらえない。







呆れたように、跳ねた赤銅の髪を掻いて呆れたように小さくため息をついて。



『ちゃんとそばに居てやるから、だから泣くな。馬鹿』



そういって、頭をなでてくれる手がいやに大きく感じられた。
自分に触れる他人の体温が、こんなにも優しいものだったんだと改めて思うと涙が止まらなかった。
泣くなと言われたのに余計に泣けてきて、困ったような表情のクロスはもう一度深くため息をついた。



いつも決まって月の綺麗な夜だった。
月光が部屋を照らす、薄暗い部屋で急に寂しさが込み上げてきて我慢が出来なくなった。
必至に忘れようとしていたこと全てが、鮮明に脳に甦って苦しかった。
忘れてはならない、自分の深い業が全てこの身にのしかかってくる。
耐えられないから、声を出さないように静かに泣いた。
嗚咽を必至に堪えて、蹲っているとクロスの手がそっとアレンの髪を撫ぜる。
月の綺麗な夜だけは、甘えてもいいのだと思って安心できた。
『そばに居るから』と、言葉がもらえた。

温かくて、とても幸せだった。












「・・・・・ウソツキ」



拭っても拭っても、涙が溢れてくる。
もう、ずっとそばに居てくれないのだろうか。
寂しくて死んでしまいそうなのに。
月の綺麗な夜なのに。




寂しくて、死んでしまいそうです。