「全く君はスナオじゃないね」
短い言葉と共に吐き出される紫煙。
シーツに煙草の匂いが染み付くから止めろといっているが、今更聞くわけが無い。
もう諦めているのに、気になって仕方が無い。
皺になったシーツを握り締めて、放す。
ああ、気になって仕方が無い。
「何だかんだいって彼が好きなくせに、どうして君はまだ僕に抱かれてるんだろうね?」
傍若無人とは正にこの存在そのものをさすのに相応しい。
返答しなくても勝手に喋る。
もっとも、相手も返答が返ってくることなど期待してはいないだろうが。
返答しないのを知っていて、わざと痛いところをつく。
全くもって最低な男だ。
勝手に部屋に入って、勝手に自分ひとりだけ楽しんで、勝手に帰る。
ああだこうだ言っても無駄だということに気付いたのはもう随分と前のことだし、けれどどうもしないのが自分だ。
ベッドに横たわっていても、別に寝ている訳じゃない。
ただ勝手に喋る相手の戯言を聞いているだけ。
「君はもっと自分を大事にした方がいいよ、皆君が大好きで仕方ないんだから身体は大切にしなきゃ」
だるい体も、止まらない頭痛も原因は自分にあるということを忘れているんじゃないだろうか、この男は。
身じろぎするたびにギシギシ鳴るスプリングが耳障りだ。
いい加減に帰ってくれないのだろうか。
「ああ、そんな顔しなくてももうすぐ帰るよ。君ももうすぐ仕事だろう?」
「・・・・分かってるなら早く出て行ってください」
咽が、引きつって声が掠れた。
それだけ言うのが精一杯で、言うとすぐに枕に顔を埋めた。
「うん、じゃあ・・・またね」
お互い顔も合わせずに一方的に挨拶を告げて、数秒後に部屋に残ったのはドアの閉まる小さな音の余韻だけだった。
「自分が一番スナオじゃないくせに、何を言っているんだか・・・・」
静寂の部屋の主の小さな独り言が消えるその前に、屋敷中に甲高い悲鳴が響き渡った。
「・・・・・・・・・・ヤツも可哀想にな」
同情は、しないけれど。
これはただのの戯言なのだから。