あの頃は、冗談抜きで本当に心の底から愛していた。
柄にも無く、体だけでなく心も欲しいと願った。
いい大人が、十代も半ばの少年にどうしようもなく夢中だったのだ.
今だから茶化してしまえるようなことも、してしまった後で一晩思い悩むほど後悔して、翌日顔を合わせるときなどみっともなくオロオロとしたものだ。
けれど、数秒後には無理矢理言葉で取り繕って誤魔化そうとする私に、あの子は言った。
「おはようございます、旦那様」
花が綻んだような笑顔。
けれど形だけは儀式的な朝の挨拶を、いつもの通りに。
真っ直ぐに伸びた背をそのまま曲げて、礼を。
そしてまた笑う。
ほんの少しだけ、優しげな笑みを浮かべて。
たったそれだけのことなのに、私の心は初恋を知った幼い娘のように高鳴って、けれど水を打ったように穏やかで清らかな気持ちになった。
「おはよう、セバスチャン」
そう返すと私はセバスチャンの細く華奢な肩に両手を乗せて微笑んだ。
私を見上げるセバスチャンの人認めがあった。
私はそのままゆっくりと屈み、セバスチャンの髪にそっと口付けた。
セバスチャンは少しくすぐったそうに身をよじったが、抵抗はしなかった。
ゆっくりと唇を下に移動させて今度は額に音を立ててキスをする。
するとセバスチャンは眉根を寄せて、私のシャツの端をギュッと掴んだ。
「ん、どうした?」
わざとらしく首を横に傾けてそう聞くとセバスチャンは恥ずかしそうに目を伏せて、蚊のなくような小さな声で言った。
「旦那様っ・・・・・・・」
少し上ずった声、瞳の縁は少しばかり赤くなり涙が溜まっている。
羞恥で赤く染まった頬をなで上げると甘い声が口から漏れる。
「んっ・・・・・・」
「どうして欲しいんだ、言ってごらん?」
顎を掴んで、真正面から青い瞳を捕らえるとセバスチャンは泣きそうになりながら恥ずかしそうに言った。
「口キスにして下さい・・・・・・」
そして私は・・・・・
グガゥ・・・・・ガッシャーーーン!!!!!
「う゛ゴバビゥプロパッ・・・・・・・・・!」
「下らない妄想もいい加減にしろ、このモーロク爺!!こんなプロジェクターまで用意しやがって・・・・・」
「何も鉛入り釘バットで殴ることは無いじゃろう、真面目に痛いわ!年寄りには優しくせんか!!」
「黙れ、肖像権の侵害もいい所だ・・・・ったく、飽きもせずこんな物作って」
「ああっ、ワシのコレクションがっ・・・・!!」
「なーなー、ハニー。今のってホントに全部大旦那の妄想なのかー?」
「当たり前だ!!」
「ふーん・・・・・・・・」
「・・・・・なんですかユーゼフ様、言いたいことがあるなら仰って下さい」
「別に〜?」
「どどっどどうなんですかユーゼフ様!?マサカ今のは真実なんですかぁっ!!!」
「・・・・・・ツネッテ、メモとペン片手に何を・・・・」
「うるっさいわね!!!引込んでなさいよB!!」
「〜っ、貴様等とっとと消えうせろーーーーーーー!!!!!!!」
END