「綺麗・・・・なんだけどなぁ・・・・・」
はぁ・・・とため息を吐き出して、Bは窓の外をみやった。
はらはらと舞い散る薄桃色の花弁が風に乗って飛んでいく。
「いいじゃないか、B君よ。お向かいさんの愛が一身に篭っているんだぞ」
「それがイヤなんです!!!!!!」
ずずっ・・・とお茶を啜りながら言うディビッドに全力で言うと、Bは肩を落としその場にしゃがみこんだ。
床に『の』の字を書きながら鬩ぎあう感情を必至に押さえ込むB君の背後は異様に空気が重い。
嬉しいのだけれど素直に喜べないあたりがなんとも微妙。
「・・・・・B、あの人もたまにはいいことをするということで落ち着いておけ」
「セバスチャン・・・・・・」
暗黒の世界に差す一筋の光が・・・・・!!
Bは顔を上げて、優雅にカップを傾けるセバスチャンに目を合わせた。
珍しく微笑んでいるセバスチャンは聖書に出てくる天使にも引けを取らぬ神々しさを放っていた・・・・ような気がする。
実際はというとたとえ事実がどうであれ、そう思っておけという彼なりの救済措置だったが今日のセバスチャンは一言多かった。
「いくら人間離れしていても何万年に1回くらいは他人に無償で好意的になるかもしれないだろう」
「あはははは、言葉の一つ一つに大きな棘が刺さってるぞ。ハニー・・・・・」
「あれのせいで掃除に追われる羽目になった・・・・」
「あれだけあったら沢山ジャムが作れるな・・・・後で桜餅でも作るか、ハニー」
「・・・・・・後でな」
そう言うとセバスチャンは視線だけ外にやって、軽く息をついた。
季節はずれな花の贈り物があって以来、デーデマン家は薄桃色の花弁で覆い尽くされていた。
それこそまさに計ったように、あたり一面ピンク色。
メルヘンな世界が広がるフ●ンクフルト、しかしなぜかお向かいのお家だけは無事であった。
ご近所から抗議があってもよさそうなのだがそれもない。
なぜかとはあえて言わないこととするが。
「まあともかくB君。お向かいさんもB君が喜ぶだろうと思ってやってくれたことだ、枯れるまでしっかり観桜してやりな」
「・・・・・・・そう、ですね」
そういわれてみれば、いままで恐怖心ばかりが先行してあんまり花を見ていなかった気がする。
それも、いいかもしれないとここにきてBはようやくそう思えた。
麗らかな、冬の日に舞う桜はとても綺麗だ。
「しかし・・・・・・・」
ほんわかとした気分にディビッドとBが浸りきっていた時、セバスチャンがお茶のおかわりを煎れながら無表情のまま、言った。
「桜の木の下には死体が埋まっていると言うがな」
ビュオオオオオォォォォ・・・・・・・ッ
北風寒く、吹き荒れて・・・・。
瞬間、凍りつく空気。
冬の寒さが急に帰ってきたようだ。
恐ろしい考えが頭をよぎる。
そうなのか!?そうなのか・・・・っ!?
マサカマサカマサカマサカマサカマサカマサカマサカ・・・・・・・・・。
Bの心拍数が急上昇し、手に汗をかき、全身に鳥肌をたてながら咽元まで迫っている悲鳴を必至に堪えていた正にそのとき。
「知りたいかい?」
ポン、と軽く肩に乗せられた手が・・・・・・・・。
悲鳴を飲み込んで咽からヒュウと音が漏れたその後、Bは意識を失った。
・・・・・・・合掌。