「はあ・・・・・」
今日何度目のため息だろうか。
もう良い加減嫌になってくるのだが、やめる事も出来ない。
嫌なのだ。
とてつもなく嫌なのだ。
「B君・・・・そう始終くっついていられたら調理もできんのだが・・・」
「うう・・・・すいません。でも・・っ、でも・・・・!!!」
「ああ、ハイハイ。分かってるから・・・・」
泣いている子供をあやすディビッドも最近はBに少し厳しい。
それはなぜか?
「こっちもハニーが最近冷たくてなぁ・・・・・」
こちらもまたため息。
デーデマン家のマイナスイオン発生機・・・もといディビッド氏にも一応悩みというものがある。
セバスチャンはいわば鏡のようなもので、相手がそれ相応の対応をしようものならそれに見合うだけの対応をする。
敵意を向ければ敵意で返すし、そうでなければ彼の対応も普通なのだ。
ヘイヂとて例外ではない。
さて、ここで少しばかり話が変わる。
皆々様も知ってのとうり、デーデマン家使用人B君はお向いのユーゼフさんに並々ならぬ恐怖心を覚えておいでです。
しかしユーゼフさんはそんなB君を追い回すのが大好きなご様子。
だがしかし、最近はというと癒しの場を得たB君はとディビッドさんのところに入り浸り浸りきり。
ユーゼフさんは面白くないと思いつつも、仕方なくB君弄りを中断して優雅にお茶の時間・・・・というのがしばらく続いていたのだがどうにも我慢の限界らしい。
かといって本気をもってして無理矢理に引き剥がすのも大人気ないと・・・・とりあえずセバスチャンで遊ぼうと仕事で忙しい彼に迷惑かけまくり。
たいした用もないのに呼び止めてみたり、デーデマンやヘイヂの暴走に付き合ってみたりと方法は様々。
それがBで遊べないしわ寄せと知った時のセバスチャンの行動といえば・・・。
ディビッドにべったりのB→Bをかまえない腹いせに邪魔をしてくる→仕事が進まない
・・・そんな図式が瞬時に浮かび上がり、そもそもの原因はと検索した結果。
ディビッドにべったりのB
・・・・・・・・・・・・・・・つまり。
原因=ディビッドとなったわけだ。
事の発端はディビッドにあると認識したセバスチャンはこころなしか冷たくなった・・・・と彼は語る。
「でもセバスチャンはいつもそんな感じじゃ・・・・・?」
「いや・・・・一緒にお茶してくれなくなったし」
今までしてたんですか・・・・・・・・と、声をかけられないくらいにディビッドは意気消沈していた。
彼にしては珍しく。
Bはそのことに関してとても申し訳ないと思っているが、どうしても嫌なのだ。
「いっそどっぷり浸かっちまうのも一種の手だと思うんだけどなぁ・・・」
「絶対嫌です!!!」
力いっぱい否定したBだったが、それではディビッドにしわ寄せが行く。
一体どうしたものか。
「まあ・・・とりあえず早めになんとかするように」
「本当にすいません・・・・・」
謝って、謝りたおしても、この場所を失うわけにはいかないのだ。
でなければ明日はない・・・・!
B君心の決意。
「でもAまでいった仲なんだから・・・・・・」
「んぎゃあああああああああ!!!!!!!!!忘れてたかったのに言わないで下さいよ!!!」
ディビッドのいうAはもちろん使用人A君のことではない。
微妙に古臭いネタなので多分最近の子は知らないであろう意味深なそのアルファベットはBの脳の奥底に仕舞われかかっていた記憶を揺さぶり起こした。
悲劇の瞬間を目撃されたと言う衝撃も相成ってBは恐慌上体に陥った。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だああああああああぁぁぁぁっ!」
顔面蒼白、壊れた蓄音機のように同じ言葉を繰返すBを見てディビッドは乾いた笑い声を上げた。
「ハハハハハ・・・・・・・。B君、そんなに叫ぶとお向かいさんが・・・・」
「呼んだかい?」
ポン、とBの肩に乗せられた手は間違えようも無く話題のユーゼフのもので
「ひっ・・・・・・・・」
息を呑んだ、その次の瞬間・・・・・二人はディビッドの前から姿を消していた。
跡形も無く。
「・・・・・・・・・・・・」
数秒間の沈黙の後、彼が導き出した策はというと。
「うん、俺は何も見なかった!」
ディビッドは満面の笑みでそう呟くと、厨房にむかって歩き出した。
NEXT?