夢のような夢を見る
真っ白な空間、寒くも暑くもない。
ただ其処に有るだけの空間。
おろしたてのシーツのようなその白さは目に痛くて目を閉じたけれど、それでも世界は白かった。
『本当にお前はダメな子だね』
その世界には声だけがあった。
嘲るような、子をあやす母のような声だった。
『馬鹿だ愚かだと思っていたけど、まさかここまでだとはね』
聞きたくなかった。
耳を塞ぎたかったけれど、その世界の自分には手がなかった。
あったのかも知れないが、視界には何も入らない。
感触もない。
『あんなヤツに気を取られなかったらずっと一緒に居られたのにね』
むねの辺りがざわざわして落ち着かない。
どこかで聞いたような声、コレは誰?
『馬鹿な子だ。お前一人では何も出来ないくせに、自分から離れるだなんて』
離れる?
違う、離れたんじゃない。
キリキリと胃の辺りで、叫びを揚げる自分の想い。
「ちがう・・・・・離れたんじゃない・・・・」
声が、震える。
この世界で初めて発した声。
それは、ずっと頭に響いていた声に似て。
「捨てたんだ」
『・・・・・・・・』
そう、捨てた。
自分ではない自分を見る、あの目が堪らなく嫌だったから捨てた。
見て欲しかったから、望んだのに。
『そうだよ、捨てた。お前はお前の中からキラを・・・僕をを捨てた』
視界が急に開ける。
眼下に広がるのは、大きな鏡。
映ったのは自分の姿。
泣きそうに笑う、必至の虚勢を張った憐れな自分。
『ライトが望んだから生まれたのに、どうして消えなくちゃならない!?何故存在してはいけないんだ!?』
望んだのは自分自身。
自分を守る薄くてもろい殻を作った。
殻の中は心地よくて、温かかった。
『ライトが望んだのに、ライトが僕を望んだから僕は生まれたのに!!』
咆哮にも思える叫びは、耳を通り抜けて感情もなにもなくただ言葉だけが残った。
「ごめんね、キラ」
『ライト・・・・・・・・・・』
泣きそうな『僕』
紛れもない、自分の一部だった物。
あの男さえいなかったら、ずっと愛しかった物。
「僕は、キラでない僕を見て欲しかったんだ・・・・・・・」
たった一人、あの人に。
「だからゴメンね、キラ」
夢のような夢だった。
ただ温かく、優しくて。
「サイヨナラ、またね」
浮かび上がる、意識。
全ては白にかき消されて、消えた。
『・・・・・・・・・また、なんてないのにね』
永遠に、サヨナラ。