目覚めると、うざったいくらい白いシーツの海。
隣に会った暖かな人肌は既に無く、肌寒さに身震いした。







ズキリ







赤く擦り剥けた両手首から発せられる痛みに、昨夜の行為が独り善がりの妄想でないことを知る。
首筋、手首。



彼の残した傷で、自分がまだ生きていることを理解した。
















「・・・・・・・・・・・馬鹿みたいだ」

















殺人衝動よりも強い、狂おしいほどの感情が溢れて閉じた瞳から流れ出す。
堕ちた涙が手首を伝い、床を濡らした。


















そこに愛とか、情とかいう感情があった訳ではないと思う。
ただなんとなく、抱いたのだと流崎はいった。
表情の分からないまるで感情が無いような顔で、平坦な声で。
服をまさぐる手はほんのりと暖かく、犯されながらもこの男が生きている事を改めて知った。
乱暴で性急ではあったけれど、あっけにとられたのか自分でも良く分からないままロクな抵抗もしなかった。
恋人同士のような甘い言葉も、強姦した相手を詰る罵倒の言葉も無く、ただ荒々しいお互いの呼吸だけが響いた。
感情の伴わない行為にも、体は反応する訳で時々上がる鼻に掛かったような甘い喘ぎがためらいがちに零れるだけ。







『・・・・・・・・・・・』





「っ・・・・・!!!」







ふいに無表情な黒い死神と目が合って、どうしようもなく羞恥心を煽られた。
空気のようにその場になじんで声を出す事もない、竜崎には分からないだろうが自分は焦っていたのだと思う。
みっともなく喘ぎ声をあげながら、不覚にも懇願してしまった。








「・・・・・・ァ、りゅう・・・ざき、っはぁ・・・ん・・・み、見るな」



「月君・・・・・・・?」








今まで片手では足りない程度の行為を繰り返し、始まりから今まで言葉を発した事は一度も無かった。
半ば意地のように声を押さえて与えられる快感を共有していただけだった。
自分だって驚いたし、それは多分相手も同じだった。







「・・・・・・触る・・・なっ・・・・、もう・・・・みるなぁっ!!!」







それは無言でこの浅ましい行為を見ていたリュークに言ったのか、竜崎にいったのかは自分でも分からなかった。
振るえる手で自分の顔を覆って、荒い呼吸を繰返す。
だから見えなかった。
竜崎の目が細められたのも、ベッドのサイドボードから取り出されたものの存在にも気付けなかった。





「なっ・・・・・・りゅう・・・・・!」





細めの体躯からは想像も出来ないような強い力で腕を引き寄せられる。
自分が言葉を発するよりも早く、竜崎は無理矢理に唇でそれを塞いだ。




「・・・・っふ・・・・ん・・・・・ぁ」




息をする間も無く、幾度も薄い唇を重ねられて口腔を舌が這い回る。
歯列をなぞる舌の感触に背筋がゾクリとした。
だんだんと力が抜けていって、目の前が霞みがかったようにぼやけた。
それでも自分ばかりが翻弄されているのが屈辱的で、形ばかりの抵抗を示す。
顔を覆っていた手のひらを馬乗りになる竜崎の体に押し付け、少しでも体を離そうとした。







「・・・・・・・っそんなに、イヤですか」





「・・・・・・ぁっぐ・・・・・な、に・・・・」









薄暗い部屋の中で、竜崎の表情が少しだけ動いた。
それに気付いたのとほぼ同時に竜崎が苦しげに呟く。





















「抵抗できるならしてみればいい」