ゆっくりと上下する胸と、規則的な寝息がすぐ傍で聞こえる。
今までには無かった物だ。
いくらかの好奇心と、暇つぶしにとシーツの海に沈んでいる彼の手を取った。
見た目には繊細そうで細い指だが、触れてみると予想よりも随分骨ばっている。
彼を綺麗だと思うが、それは決して女性的なものではない。
太古から全てを卓越した本当の美と言う物には境界線など無いのだ。
あまり日には焼けないらしく、白い手に浮き出た血管を指でなぞる。
人形的な静かな容貌に時折背筋がゾクリとするが、きちんと血の通った人間なのだと言う事実に安堵する。
体温の移ったシーツが波打つ。
彼の手がシーツの海を掻いた。
手もちぶさにしている彼の手を捕まえて、今は自分よりも一回り以上も大きい手のひらに自分の手を重ねた。
なんだかその大きさが今の自分と彼との差そのもののようで、なんだか悔しかった。
無防備に眠る彼の寝顔は、きっと今でないと見られない。
今の自分と彼は、対等ではないから。
競うことも、対立することもなく、彼の中の『安全圏』に入った自分に時折見せる表情は好きだ。
けれど、ずっとこのままでいたくはなかった。
対等でいたいから。
同じ場所に立つには今のままでは無理なのだけれど、せめて少しで近づきたい。



「難しいですね」



あたたかな手を握って、浅い眠りについた。
せいぜい子供の距離と大人の距離に安心していればいい。
どんな時でも、彼の首に鎖を繋いでおくのは自分だけの特権。