死んでも良い人間ならいくらでもいる



だが、殺しても良い人間など一人もいない





どこかで聞いたその言葉が頭をよぎった。
無意識の内に、顔に笑みが広がった。
ああ、なんて下らない考え。
今まで自分が手にかけた人間は、とても両手両足では足りないのに。
なぜか、納得した。
思えば思う程に、笑いが堪えられなくて、テレビ画面と睨めっこをしていたリュークがこちらを振り返った。




『どうした、イキナリ?』
 


「ああ、なんでもないよ。たまらなく可笑しいだけで」



奇妙なものだ。
死神なんて、空想上のモノでしかありえなかったのに。
しかもその死神が目の前でゲームをして、勝敗に一喜一憂している様を見て自分は何を思っているのか。




『家族にバレるとやばくないか?』
 


「大丈夫、聞こえてないよ」



狂ったような、笑い声。
実質狂っているのかもしれない。
それでも自分の頭は冷水でも浴びたかのように冷ややかな判断を下す。
いつ殺すか、誰をどうやって殺すか。
この非現実的な殺人を露見させないためにはどうしたらいいか。
多少の差はあっても、毎日殺しについて考えている。





殺しても良い人間など一人もいない




自分の行動とは180度反対のこの言葉に、どうしようもなく惹かれた。
惹かれただけで、自分もそうだとは言わないが。




死んでも良い人間ならいくらでもいる





前にあるこの言葉があったからこそ、そう思えたのかもしれない。
人はいつか死ぬ。
死んではいけない人間や、死なない人間はいない。
その真実を、下らない感情で覆い隠すことなく吐露したこの文は少なからず自分に好印象を与えた。
これと同じような感覚を、最近感じたような気がしてならない。





「ああ」





再びゲームに熱中し始めた死神に聞こえないほど、小さな声で呟いた。
気付いたことがある。





流河に似ている。




賛同は出来ないし、する気も無い。
それでも、惹かれて止まないのだ。




頭を擡げるのは止めようも無い好奇心。
知りたいと思う。
話をしてみたいと思う。


それでも、いつか自分は彼を殺すだろう。
降りかかる火の粉は、可能性のみでも排除しなければならない。











殺す過程を楽しむか?





振り上げたのは、死神の鎌