触れ合っているのに酷く遠くに感じるのは、この関係に明瞭な名前が無いからか。
側で会話をしていても所詮それはさして意味のあることでもなく、寧ろ無言の時間の方が楽でよかった。
お互いに不毛な腹の探り合いにはうんざりしていたが、それは形ばかりの最後の砦を壊してしまう事になるのが分かっていたから止めなかった。
今くらいの距離がいいのかもしれないと思う。
これ以上悪い状態なんてご免だ。
だからどこかでボロが出てしまわないように、二人きりでいるときはお互いに殆ど言葉を発しなかった。
代わりに側でひっついている時間が妙に多かった気がする。









殺風景な部屋には綺麗に整えられたベッドと、机。椅子が2脚。
それから本がぎっしり詰まった本棚だけがあった。

奈南川は水の滴る髪をタオルで拭きながらベッドに腰をおろす。
羽織っただけのシャツは水を含み、僅かに肌に張り付いている。
湯上りのため上気した顔が、ボフッ・・・と音を立ててシーツに沈み込む。


「ぅ・・・・・」

「濡れる。とりあえず体起こせ」


奈南川がゆっくりとした動きで上体を起こすと、火口が奈南川の頭にタオルを落とした。
壊れ物でも扱うように火口が奈南川の髪に触れ、タオルで水分を拭き取っていく。
僅かに奈南川の頭が下がり始める。
顔を覗き込むと、目を閉じてうつらうつらと舟をこいでいた。


「奈南川」


火口が呼んでも、奈南川は答えない。
代わりに小さな寝息がもれて、穏やかな寝顔で奈南川は火口に体を預けている。
まだ乾ききらない髪からはポタリポタリと雫が零れた。
火口は大きくため息をつくと、奈南川を腕に抱きこんで呟いた。



「襲うぞ、この野郎・・・・・・」



あたたかな首筋に顔を埋めると、貪るようにキスをした。



無意識に体を預けてくるのが悪い。
無防備に頼るのが悪い。
確かな言葉なんて絶対口には出さない癖に、行動の一つ一つが言葉よりも強いから。
どうせ終わりは見えているのに、いつまでたってもこの距離を変えようとしないのはずるい。

いいかげん離れたかったのに。
でないと本音が出てしまいそうだった。


弱々しい力でつかまれたシャツが皺になっていた。
もう本当に勘弁して欲しい。
一方的で不毛な恋なんて真っ平だ。

















To esu