欲しいものはいつだって自分の手の中にあった。
生か死か、その瀬戸際に立つ今も自分に有利なように事が運ぶ。
昔からそうしてきたように、仮面をかぶって過ごす日常。
下らない腹の探り合いと、周りから見た『自分』の姿を壊さないようにして行う行動。
何一つ変わってはいない。
ただ、それはあくまでも今現在の状態。
初めて遭遇した自らを貶める可能性を秘めたもの。
意味があるとも思えぬ駆け引きの日常。
それでも確かに、今まで生きてきた中でも最上級の感情の動きを感じた。




「キラは何を思って人を殺すのでしょうね?」



淡々と発せられる言葉。
それはこちらの動きを見るためか、それとも単なる好奇心か。
察することは出来なかったし、別に分からなくても困らない。



「本人に聞いてみないことには分からないだろうな」


答えても差し障りの無い程度の答えで返す。
流河はつまらなそうに指でグラスの淵を指でなぞった。
中の氷がカランと音を立てて崩れる。
薄っすらと水色がかったグラスの表面を水滴が伝う。



「犯罪心理学者じゃないから分からないけど・・・・一口に殺しの理由といってもいろいろあるだろう」



周囲の状況、環境、感情の動き、立場。
そんなことは分かっている。
自分も、流河も。



「いえ・・・・・・・そういうことではなくて」



言葉を濁して誤魔化した。
聞きたいのはそんなことじゃないだろう?



「理由なんて関係ないさ。キラを探し出すことだけを考えていればいい、犯罪者なんだから」



もっともらしい理由で誤魔化した。
言いたいのはこんなことじゃない。



「そうですね・・・・・・・」



昔からそうだった。
全て自分の有利なように事が運ぶ。
今の自分には全てを見通す目があった。
唯一のライバルを出し抜くだけの能力があった。

全ては自分の望むがままに。
理由なんて無い。
ただやりたいようにするだけだ。

自分の中に深く入り込んできた、ただ一人の人。
自分が意識した、ただ一人の人。



それを壊すために、自分はこの行為を続ける。
今欲しいのは、彼の絶望。












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