朝は嫌いだ。
目が醒めて、目を焼く日の光が嫌で嫌で仕方ない。
けれど、ブラインドを締め切ってしまうのも嫌なのだ。
カーテンを閉めて、遮断してしまうのも嫌なのだ。

毎朝毎朝、嫌だ嫌だと思いながら目が醒める。
目が醒めて、一人きりの朝はとても寒かった。





独特の倦怠感が体を支配し、汗で濡れたシーツの感触がひどく不快だ。
けれど身を動かすのも嫌で、我慢して一度開いた瞼を閉じた。

「朝だ・・・・」


呟くのとほぼ同時に携帯のアラームがなった。
6時丁度になるようにセットしておいたアラームが耳障りな音を立てる。
止めなくてはいけないと思う。
けれど、もう息をするのも億劫で指一本動かせない。
朝は、苦手だった。

意識の半分くらいはまだ浅い眠りの中でまどろんでいる、けれど顔に当る日の光が現へと引き上げようとする。
日の光が嫌いだなんて、生きることを半ば放棄した半死人のようなことは言わないけれど寝起きのこのときばかりはどうしようもなく嫌だった。
目が完全に醒めて、ちゃんと身なりを整えて、コーヒーを飲みながら仕事のことを考えていればそんなことはすぐに忘れてしまうのに。
けれど毎朝思い出す。
そのたびに忘れて、思い出して、繰り返す。
今日も、いつもように心のうちで嫌だ嫌だと繰り返す。
それでも朝と夜は否応無しに訪れる。

例え理由があったって、それは変わりのないことなのだから仕方ない。



では、理由がなくては成立しないことは?









理由が、なくては、いけない。

綺麗な、物が、好きだから。

綺麗で、無いなら好きになってはもらえない


綺麗でいなければいけない。
綺麗であればそれでいいのだから。
毎夜毎夜訪れて熱だけ奪っていく、なぜと問うてはならない。
変わらずにただあればいい、今のまま変わらなければアイツにとっては綺麗でいられるのだから。
考えてはいけない、何かを求めるのもいけない。
もう十分すぎるほどに熱を貰っているのだから。

心のそこから湧き上がってくる感情を抑えなければいけない。
腕に爪を立てて、唇をかんで、抑えなければならない。
でなければ、この目は涙を流しでしまうだろうから。
泣いてはいけない、目が腫れる。
悟られてはいけない、何もかも。

綺麗だから、好きでいてくれるならずっとこのままでいなければいけない。
好きでいてもらうために、綺麗でいなければいけない。


「ああ、そうだ・・・・・・・・」


唐突に、自覚した。
このままでいなければいけないと思いつづける自分。

どうしようもなく、火口が好きだから。

朝が嫌いなのは、朝起きて眩しすぎる日の光が嫌だからなんて理由じゃない。
朝が嫌いなのは、火口が隣にいないからだ。




だから嫌いで、好きなのだ。