急速に目の前が光で満ちていくのを感じた。
闇になれた瞳に光が痛くて、数度瞬きをしてから目を閉じた。
目蓋の奥に広がる白い闇。
その中を,一歩一歩踏みしめるようにして歩いた。
雲の上を歩いているかのような不安定な道は、急げば急ぐほどに出口から遠ざかっていくように感じる。
僕はただ、その真っ白な道を歩いている。
何故そうしているのかすら、分からない。
それともしなければならないから、こうして歩いているのだろうか。
分からない。
それでも、まるで自分の足ではないかのように勝手に体が動く。
足は歩みを続け、白い道を辿っていく。
確かに自分の足のはずなのに、自らが知覚する物全てがまるで第三者の目を通してみているかのようだった。
すぐ目の前にあるのに、自分の意思では何も出来ないままに時間は過ぎていく。
自分が吐いている息の調子も、微かに聞こえる心音も聞こえる。
でも、感じたのは違和感。
この身体は、本当に自分の物なのだろうか。
拭いきれない、疑問と自問自答しても出ない答えで頭が一杯になる。
『ライト』
突然冷水を浴びせられたようだった。
心臓が早鐘を打つ。
自分の声帯が自らの意思とは関係なく動く。
発した声は自分の物で、その声が紡いだのは自分の名前だ。
たった今までは、そんなことすら忘れていた。
得体の知れない何かが思考を、神経を犯していく。
それを知覚した時、どうしようもない恐怖心が全身を支配した。
己の存在が足元からスッと消えていく、ゆっくり、確かに。
消えていく
消えていく
今まで積み重ねてきた全ての物が、形を変えられ、違う色似塗り替えられていく。
それに抗う術が無いと言う事実に愕然とし、絶望した。
気付けば、足は歩みを止めて自分の両手は震える体を抱いていた。
『怖がらなくても大丈夫だよ、ライト。もうすぐそんなこと気にもしなくなる』
自分は 溶けて 混ざり合う。
光に満ちた柔らかな夢の中で揺れる、揺り篭。
『だからお休み、ライト』
生まれる前の夢の慟哭が空しく響いた。