なんでこんな事になったのかは全く知らないが、俺はとりあえず厄介ごとから逃げるためにあえて現実から逃避することにした。
根性ナシ、卑怯者と謗らば謗れ。
俺はテスト後の貴重な余暇を平穏に暮らしたいだけなんだ。



「黒崎さ・・」
「あ、ウルル。麦茶とってくんねぇ?」

「え、ハイ・・・・」

夏の短命昆虫が電柱にとまってミンミン鳴いている。
非常にうるさい。
そして夏の暑さにあの音は非常に不快指数を増すものであると分かって欲しい。
動揺に、俺にとっては不快指数を増す原因となるものがここに一匹。

「黒崎さんっ、無視しないで下さいよ!アタシだって好きでこんなんになってるわけじゃな・・」

「あー、うっさいうっさい。夏はミンイミンミンミン害虫が五月蝿いな」

「害っ・・・!?」

がぁん、と古典的なショック表現で浦原(らしいチビ)は畳に突っ伏した。
おお、この芝居がかっててムカツク仕草は間違いなく浦原だ。
サイズの大き目の浴衣の袖を口元に当ててヨヨヨ、と嘆いてみせる。

サイズのあう服が無いのは分かるが、大きめの浴衣に着られた子供の姿が妙におかしくて俺は笑いを堪えるために腹に余計な力を入れる努力をしなければいけなくなった。
ああ、いっそ笑い転げながら指差してやりてぇ。

「ひどい。黒崎さんの鬼、悪魔・・・」

鬼とか悪魔とかよりむしろ死神なんだが。

多分いつもの嘘泣きだろうが、蹲って顔を伏せている浦原の頭をウルルがよしよし、と撫でた。
なんだかサイズ的にはぴったりだったので、大人の姿でやられるよりはいくらか視覚的にはマシだ。
それにしてもオトコノコがオンナノコに慰められている図というのは非常に情けない。

「あの、黒崎さん。あんまり喜助さんをいじめないであげてください」

浦原の頭を撫でつづけながら、ウルルは俺を見上げてそういった。
まるで俺が二人をいじめてるようじゃないか。
いや、そんなもんなんだろうか。

「喜助さん、倉庫にあった・・・ソ そ、粗悪品間違えて飲んじゃって・・・あの、それで」

ソーワルピンの悲劇、てかアホだろコイツ。



「・・・・・・間抜け」




ウルルの陰に隠れて表情の見えない浦原に、俺は容赦なくそう言い放った。





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葎さんに捧げますっ!
こんなんどうでショ・・?
ていうかこれ続いちゃうよ・・・。