やる気の無さがぎゅうぎゅうに詰まった自習中の教室というものは、どうあっても静かにはならないものだ。


両隣の教室の授業担当教師は休み時間にチェック済み。
クラスの大半は余程騒がない限りは注意にも来ない教師が担当と知り休み時間よりは幾許か控えめに雑談を交わしつつ、真面目に取り組めば二十分もかからないような課題をちまちまと消化する。
中には課題をさっさと終わらせて即行で寝に入るような生徒も数名。
俺もどちらかというとそれに近い。
提出は授業後、提出物というのは意外と成績に響くのでやらない訳にもいかず、15分ほどペンを走らせた。
雑談のBGMは耳を素通り、集中してやってしまえばプリントの1枚や2枚はあっという間だ。
適当にうめていく回答をざっと見直して、軽く息をつく。
シャーペンを机に放り出すと、啓吾がめざとくそれを見つけて俺の机まで一直線に走り寄ってきた。

「い〜ちぃ〜〜ごおぉぉぉぉ〜〜!!!」


人の名前に妙なアクセントをつけて呼ぶな、と注意する間も無くプリントに伸びてくる手を叩き落とす。
片手で制し、もう片手でプリントを机に突っ込んだ。

「やだかんな」


「まだ何も言ってないだろォ!!」


「言わなくても分かるっつの」


暑苦しい顔が目の前に迫ってきたので、とりあえず軽めに啓吾のすねを蹴り上げる。
あくまでも『軽め』ではあるのだが、いつものように啓吾はオーバーリアクションで大げさにうめいてみせる。


「うっせぇな・・・なんといおうと見せねぇかんな、これくらい自分でしろ」


「一護のバァーーカ!!ちょっとくらい見せてくれたっていいじゃねぇかよ〜!!」


「イ・ヤ・ダっつーの。ほら、さっさと席ついてやれ」


成績が下がっても構わないなら俺はなんにもいわないけどな。
テストの点でも悲鳴をあげているのに提出物も出してないなんてことになったら、学期末に泣きつかれるのは目に見えてるし。
どうせ補習だなんだで課題をたっぷりと出されて手伝うことになるんだろうけど。


「どうしても分からなかったらソコだけ聞きに来い、そん時は教えてやるから」


「・・・・・一護のイケズ」


ようやく啓吾が折れて、しぶしぶと言った様子で自分の席に戻っていった。
まだ微妙にこっちを見てるけど、無視。


「一護ってこういうこと結構キビシイよね」


「水色、啓吾の手綱しっかり握っとけ・・・俺が言っても聞かねぇんだから」


付き合いの長さの分だけ、というか性分というか、水色は啓吾の扱いが上手い。
あの異様なテンションをバッサリと断ち切ってしまう点においては非常にスバラシイ。
ただ水色は啓吾にやや甘めかとも思う。


「まぁいいじゃん、ちゃんとやってるし」


水色は啓吾の方に視線をやって、もう一度俺に戻した。


「まあ、な」


今は、と言葉には出さずに言い含めると水色が笑った。
ガヤガヤと五月蝿い教室の中、もう五分もすれば音を上げた啓吾がまた騒ぎ出してもっと五月蝿くなるだろう。

それまでには、とりあえずプリントの見直しでもするかな。




自習中の教室なんて、だいたいこんなもんだ。