5・ひっかく



ガリ、うっすらと皮膚に血がにじんだ。


「痛いんですケド」


「知らん」


傷口に爪を立てて、抉る。
血の玉が浮いて、はじけた。
スッと赤い線が肌に引かれた。


「悔しい?」

「五月蝿い」


本当なら、傷口が膿んで腐るまで傷つけたいのに。


「彼はアタシだけのものですから」

「・・・・・・」


大切な人の大切な人はとても憎い。
それを嫉妬と呼ぶ。
大切な人の大切な人が傷つけば、大切な人も傷つく。
それはどうしようもないこと。

「夜一さんにだって、渡しませんから」


それは友であっても、同じこと。
反論が出来ないのは、もう答が出きっているということ。


それでも、爪を立てずにはいられないのだ。

殺めないのは君がため

それもひいては己のため


げに恐ろしきは恋という名の執着、ただ、それのみ。


「そんなことは、分かっている」



けれど、あきらめもしない。


「分かっている」