5.いつか、また





夏が来ると、いつもその頃だけ思い出していた。

もう思い出すことすら、混濁した意識の中であの夏だけが鮮明だった。


やけにうるさい虫の声や、
冷房の無い部屋の中でのくだらない掛け合いとか、
どうでもいいようなことばかり覚えているのだから始末に負えない。
思い出したかったのが何だったかさえ、今は分からない。



目を閉じて、いつかまた会えたらいいと。
それは願いのような、祈りのような、確信のような。




いつか、と。




そんな先もわからぬただ時に任せた曖昧な言葉に、全てを委ねた。






死んでしまうのも、案外悪くないかもしれない。













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