5.笑って下さい 無意識なのは知ってるけど、アタシの前でそういう顔するのは止めません? 辛いなら辛いって正直に言えばいいのに、意地っ張り。 自分の所為だとそう思い込むのは簡単、そしてそれが一番楽な処置。 辛くても、どうか、どうか・・・・・・。 激しい雨がアスファルトを叩く。 黒崎さんは全身びしょ濡れになっても、いっこうに気にした様子はなく店の前の路で座り込んでいた。 膝を抱えて蹲って、傘を差し出しても顔を上げなかった。 「黒崎さん」 雨の温度も、音も、彼の中ではずっと止まなくて。 その雨のせいで傷口は膿んで、血が流れ出す。 自分の前では弱みを見せてくれたと、喜ぶべきか。 それでも、今日と言う日だからこそ笑っていて欲しいとおもう。 夏も間近、雨雲もやがて去るだろう。だから、どうか。 笑って下さい。 |