正直に白状します。
俺は浦原を甘く見すぎてました。





意外だと言われるかもしれないが俺は割りと子供が好きだ。
年の離れた妹二人の相手をよくしてやっているから、扱いとかもまあ手馴れたもの。
そうでなくたって、自分より年下の子供や女性は守るものだとクソ親父からよく言い含められて育ったしそう言うものだと思って16年間過ごしてきた。
だから、これはもう反射運動に近い。
いくら中身が浦原だといっても、今にも零れそうな涙をギリギリの線で堪えている状態で見上げてくる姿は360度どこから見ても子供そのものだ。
普段なら泣きそうな声で訴えられても気持ち悪いだけだが、子供の姿だと邪険に扱いきれない。
長子気質というものは厄介で、そういう風にされたら甘やかさざるをえないのだ。

サイズが縮んでしまったので、帽子をかぶるわけにもいかず脱いでしまったから月色の髪の毛が動きに合わせてゆらゆらと揺れる。
ふわふわの猫ッ毛は随分と手触りが良さそうだ。
手を伸ばしかけて、やめた。
浦原と目が合ったからだ。


「・・・・・・何?」


何か言われる前に、自分から言った。
きょとん、と大きな目を丸くして浦原は畳の上に正座している。


「黒崎さん・・・そんな珍獣でも見るような視線投げかけないで下さいよぅ」


一般世間で一日で退行するような人間がいたらまず間違いなくそれは珍獣扱いされるだろうが、そこはあえてツっこまないでやった。
頭を垂れてしゅんとしている様はかわいいと言えなくも無い。


「んー、?」


「んー、て・・・あのねぇ・・・」


どうしようか5秒ほど迷ってから、俺はそれを実行に移した。
体格差で自然と差がついたリーチのために、それはっさりと成功。
俺は浦原を抱き上げて、そのまま自分の膝の上に向かい合うような形で乗せた。
腕にすっぽりと収まる小ささ、骨ばった感触も無く子供独特の柔らかさがあった。
普段は低めに感じる体温も今日は心なしかやや高めだ。
今更ながらあちらの道具には驚かされる、粗悪品といえどまさか退行するようなものがあるとは。
しげしげと観察してみるが、元の姿を知っているだけになんだか妙な気分だ。


「・・・・黒崎さん」


すぐ目の前で、飴玉みたいな目が揺れている。
俺のシャツを掴む浦原の手に力が篭る。


「何?」


俺はさっきと同じようにいった。

僅かに開いた戸から風が吹き込んできて気持ちいい。





「えっちぃことしたいです」













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何を言われているか分かりません。
というか分かりたくありません。




「ほら、大丈夫ですよ黒崎さん。今のアタシちっちゃいですから楽に入っちゃいますって」


ぷにぷにとした柔らかな子供の手が、残酷に俺の体に触れる。
シャツに差し入れた手が腹を撫ぜて、その感触にビクリとした。
子供の姿をしたそれは、情欲に濡れた目で俺を見つめた。
獲物を狙う捕食者の目、絶対的な征服者の目だ。
昼間に戯れごとで涙ぐんでいた情けない男の姿は、そこにない。


「っ、冗談キツイって・・・な、浦原・・・」

「冗談?マサカ、アタシは今すぐシたいんです」


言うが早いか、浦原は全体重をかけて俺を両手で押し、床に転がした。
まさかこの体格差でこんな状況に追い込まれるとは思いもしなかった。
そのせいで反応が遅れ、気付けば浦原にのしかかられていたことに気付き俺は顔を青くした。
浦原の意図が分かって、おもわず腰を引いた。
けれど子供の力とは思えないほど強い力で引き寄せられて、本格的にその状況の悪さを知る。


「嘘っ・・・!」

「痛くしませんから、ね・・・いいでしょう?」

「いいわけあるかっ!!」


そう言っている間にも浦原の手は俺の服を脱がしにかかっている。
馬乗りにされているせいでロクに力も出なくて、両腕で浦原の体を押し返すのも簡単にはいかなかった。
こんな子供の姿の浦原にイタされるなんて冗談じゃない。


「あんな風に誘っておいて何今更恥らってるんですか?」


俺がいつどこでどんな風にお前を誘ったか!と言い返したかったが、それをする前に浦原が俺の口を塞いだ。
驚いて拒絶の言葉を吐きかけようと口を開こうとすれば、小さな舌がもぐりこんできて結局は自分の首を絞める結果になった。


「ふっ・・・ひゃぁ・・・っん、ャ・・・!」

「誘ってなんかないって?」


幼いその容貌に不似合いな加虐的な表情を浮かべて、浦原は俺の中心に触れた。


「あっ、・・・ひぃ・・・ぅ」

「君にそのつもりが無くたって、滅多に自分から触れてくれない恋人に突然あんな風にされたらどんな男だって勘違いしますよ」


前言撤回。
こんなヤツ全然かわいくなんか無い。
浦原は、どんな姿だろうと浦原だ。
分かってたつもりなのに、分かってなかった。
俺が悪かったです、ですからさっさと止めてください。
やめろ。


「ぅ、んあっ・・・」

やめて欲しいのに、こんなことしたくないのに。
体が勝手に反応する。

既に反応しきっている箇所があつくてあつくてたまらない。
いつも触れる手より小さい手。
焦らすようにゆるい刺激ばかりを繰り返す浦原が憎らしくて、俺は思い切り睨みつけた。
浦原はいつだって余裕たっぷりで、こんな状況でさえ俺ばかりが翻弄されている。
いつもとちがう、こんな姿だから。
こんな姿なのに、俺は浦原に欲情してしまっている。
それが、恥ずかしくてたまらない。


「顔真っ赤、かわいいですね」


神経が焼き切れそうだ。
いつもの比じゃない、とてつもなく恥ずかしい。


「やだっ、浦原・・・っ」

「黒崎さんは、したくないの?」

浦原は敏感な場所にそっと触れ、なで上げるようにしてからグっ、とつめを立てた。


「んぅっ・・・あ、やぁ・・・っ・・・ひっん」

「きもちヨくない?」


きもちいい。
したい、けど。


「今は、やだ・・・おねがいだから」

「・・・・・・何で?」


不満そうに見下ろす浦原の表情が痛い。
このまま流されてしまいたかったけど、どうしてもいやだ。


「浦原がいい、浦原じゃないといやだ・・・今は、今のままじゃ嫌だ・・・」


今だって、自分に触れているのは間違いなく浦原だけど。
だけどいつもの方がいい。
浦原じゃないみたいで、今はいやだ。


「・・・・・・こうされるのが嫌なわけじゃないんですよね?」

言って、浦原は手を止めた。
俺が逃げるのを止めるように、まだ上に圧し掛かったままだけれど。

本当は、こうされるのが嫌じゃないから俺は素直に応えた。


「うん・・・・」

「元に戻ったら、最後までシてもいい?」

「それは・・・・」


自分の口から『欲しい』というにはまだ抵抗がある。
伺うように浦原の目を見つめたけれど、何の応えも返してくれない。
言わなかったら、今すぐ続きをされそうで俺は慌てて頷いた。

「分かりました」


浦原にしては、やけにあっさりと納得したなと思うべきだった。
納得してくれたと思って安心していた俺は全身の力を抜いて、畳の上に寝転がったまま長く息をはいた。
まだ、鼓動が早くて落ち着けるように深呼吸を数度する。
浦原がのそのそと俺の上から退いた後も、俺はそのままそうしていた。
目を閉じて。



「じゃあ、とりあえずこっち処理しちゃいましょうね」


「は?」


俺がその意味を理解する前に、浦原は俺の股間に顔を埋めてしまっていた。
一度冷めかけた熱が、もう一度戻ってくる。


「っなに、やってんだよ・・・!!」

「まさかコレそのままにしとく訳にもいかないデショ?」


いい!ほっといてくれていいから!!
そんなことをいう暇も無く、浦原は半勃ちになった俺を口に含む。
生暖かい粘膜につつまれて、俺は腰にズンと響くほどの快感に目を回した。


「あんっ、っふぁ・・・、あ、あ、あ」

ぐちゅぐちゅと激しい水音が耳に届いて、俺は思わず耳を塞いだ。
それでも間接的に、遠くに響くように聞こえてくる音。
止まらない、抵抗できない。


「やぁ・・・・ん、っふぁ!」

舌でチロチロと舐められて、甘噛みされて。
その強弱の差がたまらなくきもちよくて、俺は抵抗することもすっぱりやめてしまった。


「イイ声・・・、もっと鳴いて?」


「ひぅぅっ・・あ、あぁっ・・・・!!」


自分から快楽に身を任せて、俺はあっけなく達した。









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後日、俺はあのときの言葉を酷く後悔することになる。




「シてもいいっていいましたもんね?」



そんなにあっさり戻れるものだなんて、思ってなかった。
あんだけワーワー言っておきながら、実は自分でいつでも自由に戻れたんじゃないのか・・・という言葉は飲み込んで。
ダラダラと冷や汗を流しながら、俺はどうやったら逃げられるかということだけを必死に考えていた。




「逃がしませんからね」




ああ、いつも通りの浦原だ。