夢の中で出会った人の形をしたものが、俺に話し掛けてきた。
なんかよく思い出せないのだが、ぽわぽわした場所に浮くように俺たちは立っていた。
アンタ誰?と尋ねると、男は胡散臭そうな笑みをたたえて即答した。


「死神です」


いくら夢だとはいえ、
コイツ、頭大丈夫だろうか。


「死神?」


「ええ、死神です」


死神というものはフードのついたマントのような衣服にバカでかい鎌なんぞをもっているというイメージを持っていたのだけれど、自らを死神というその男は純和風の着物を着ている。
纏う色は黒で、そこだけがなんとなくイメージと繋がるだけであとはごくふつうの人間のような姿形をしていた。
淡い金色、というか草色?の髪は猫ッ毛らしくあちこちにはねていて、死神が喋るたびにぴこぴこ揺れる。
ヘンなの、全然死神っぽくない。
だって、こんなやつ全然怖いと思わない。


「あんたさ、俺の睡眠の邪魔だからどっかいってくれない?」


こんなやつがいたんじゃ、起きた時に思い出してきっと不愉快になるし、寝た気がしないだろうと思って俺は死神にそういった。
だいたいさ、もうすぐテストだからって夜遅くまで勉強してようやく眠れたっていうのに何でこんな訳の分からない夢を見なきゃいけないんだ。
最近の中学生は意外と忙しいんだ、だからさっさと出て行け。

見ている夢のなかで、夢の中の人物に対してそんなことをいっても意味がないのかも――と思ったがそうでもなかった。


「あー、そうですねぇ・・・」


マジかよ。
だったら最初から来んな、邪魔だよ。


「・・・何スか・・・その顔は、人が折角気を利かせて帰ってあげようとしてるのに」


うわ、押し付けがましい。何だコイツ。


「ナンデモないです、それではサヨーナラ」


「その前に、いっこ質問いいッスか?」


「まあ、別に・・・」


「少年、お名前は?」


俺の見てる夢で、俺の名前聞かれるってなんか変な感じ。
けど別に、答えても困らないし。



「黒崎一護」


名乗ると、死神は満足したように頷いた。



「それでは黒崎さん、オジャマしました。よい夢を」


そう言って、死神は俺の目の前から煙のように消えていった。

夢の中で、良い夢をって・・・。



ヘンなヤツ。