「どうして彼は僕みたいのがいいんだろうね。」



特に感情も乗せずに吐き出したはずの言葉は、意思とは裏腹に少し震えていた。



「そんなこと、本人に聞けばよかろう」



友は、わざとそれを聞き逃して何でもないように答えた。
そんなはずはないのに、まさかそんなはずはないのに。


自分は恐れているのかもしれない、彼が離れていってしまうことが。


好きだの、愛してるだの、そんな言葉で飾り立てるようなことではないんだ。これは。




「聞けたら、とっくに聞いてますよ」


どうしてわざわざ不幸になるためにここにくるのか、まったく理解不能だ。
彼にとって、なにか益になることなんてないはずなのに。
こんな最低な男、どこがいいんだろう。
あまりお互いを知らなかった頃ならいざ知らず、なんで今になっても彼は自分を好きでいてくれるんだろう。
彼が欲しがったものを、自分は一度も与えたことはない。
安っぽい嘘の一つでも言ってやればいいのに、それすらもしなかった。
一方的に貪るだけのセックスや、いっそ暴力的なまでの冷淡な言葉、望んだわけでもないのに自分のからだが勝手に動いてとまらない。
冷たく突き放して、そのまま放り出すこともよくあった。
こんなつもりではないのに、思っても止まらなかった。
それでも彼は自分から離れなかった。

馬鹿みたい、こんな男のどこがいいんだ。
汚い所ばかり見ているのに、なぜ嫌いにならないのか不思議でたまらない。
あんなに真っ直ぐで、素直で、とてもとてもいい子なのに、どうして自分なんかがいいのだろう。




「そんなこと、今更すぎるだろうに。何を言っている」


「分かってますよ、そんなこと」


傍にいても、いつも辛そうな顔で、それを放って置いたのは自分。
なんで今更と、言われるのが当然。


なのに、なんで自分の方がこんなに傷ついているのか。


傷ついているのは彼のほうだろうに。
何を、思っているのか。
傷つけておいて、何を思っているのか。



「ハハ、最低だ」


自嘲よりも明るい、けれど泣きたいくらいに痛かった。
自分自身のしていることに、なんで傷ついているんだろう。


君に幸せになってほしいから、そのためにならなんだってする。
君の幸せに、こんな最低の男はいらない。
だから、だから。


お願いだから、嫌いになってよ。