薄い雲に覆われた空を見上げて、深く息を吸った。
雲の切れ目から差し込む光はとても穏やかで優しかった。

まだ冷たい空気を肺一杯に取り込むと気分的に何かが軽くなったような気がした。
とても、気持ちのよい温度だと思いながら呆けた顔でぼんやりと空を眺めていた。
縁側に腰掛けて、一服。
ふぅ、と煙を吐き出すと青色に近い灰が一瞬で空気に溶けた。

こんな空の日は、良くも悪くも余計なことに思考が廻る。
一緒に散歩に行きたいなァとか、ココで寝転がって二人で昼寝なんかしたらどんなに心地がよいかと思う。
自分で送り出した、自分が送り出した。
本当は嫌だったけれど、彼の中の強い意志を感じたときには止められないと思ったから。
子供じゃないんだからと自分に言い聞かせて,決めたことなのだから今更アレコレ思ってみても仕方がないじゃないか。
けど、だけれど、思ってしまうのだからそれも仕方ない。
別に後悔しているわけではないから。
だからできるだけ早く、我慢が出来なくなる前に帰ってきてくれないと。
早く、早く。


足元の石ころを蹴飛ばして行方も見ぬままに縁側に寝転がる。
帽子を顔に載せて組んだ手は頭の下、目を閉じて思考を停止した。
スイッチを切るように、停止した。


ああ、早く帰ってきてくれないと本当にどうかしてしまいそうだ。
こんな女々しいことを考えるほどに切羽詰っているのだから、責任をとってもらわなければ。


早く帰ってきて。
そして、どうか御無事で。