目の奥が妙に腫れぼったい。
じんじんと弱い熱の刺激を受けている眼球があつくて仕方なかった。
手のひらを当ててみるとわずかな温度差があるが、どちらもあつい。
目を覚ました瞬間に、ああ・・風邪かとすぐ分かるほどの状態になっていた。
気だるい体を起して部屋を見回しても誰も居ない。
朝の静かで清廉とした空気の中に、自分ひとりだった。
自分の部屋でもないのに既に見慣れた畳の部屋は、なんだか少し煙たい。
僅かに香る花のような香りがなんなのか自分は知っていたが、彼は自分の前であまりそれをしないのでめずらしいと思った。
ぼんやりと、そんなことを考えて倒れこむようにしてもう一度布団に寝転んだ。
体を起こしているのが辛かった。

「あー」

単純な母音を伸ばした音、とりあえず発生に楽な音を出してみる。
咽の引きつったような感覚と、篭ったような声。

「・・・やばい」

自分で思ったより、重症かもしれない。
吐き出す息は重く熱っぽいし、思考するのも億劫だ。

「やばいって・・・」

きっと、心配するだろうなと思ってしまった。
ああ、風邪移ったらすっごい嫌だなと


思ってしまった。
やっぱり、重症かもしれない。