最近、浦原商店でよくない噂を聞く。
曰く、浦原が自室に篭りがちだと。
俺がいる時には部屋を出ているが、俺が帰るとそそくさと部屋に戻ってしまうそうだ。
最初は今に始まったことじゃないと従業員のジン太達も言っていたのだが、
長いことそういうことが続くとさすがに何をしているのか心配になったようだ。
だから、俺に調べてくれと。
そんなスパイまがいの危険な仕事を何故俺が、と言ったけれど聞き入れてもらえなかった。
「お願いいたします!私達だと部屋に入れてもらえるかどうか!」
「そうだぞ!やれオレンジ!俺達の生死がかかってるんだ!」
「お、お願いします…」
普段、虚と渡り合っている従業員達が恐れをなすほどの男―――浦原喜助はある意味最強だ。
従業員三人に詰めよられて、一人で太刀打ちできるわけもなかった。
無理矢理頷かされて、浦原の部屋に送り出された。
かつてこんなに浦原の部屋に入りずらかったことがあっただろうか。
怪しい!と口を揃えて言っていたのを聞くと、ただの襖なのに本当に怪しく見えてくる。
「開けたとたん地球外生命体が襲ってきたらどうしよう…」
毒ガスが充満していたら、部屋がジャングルになってたら、異次元世界に繋がっていたら、と不安は尽きることがない。
死神になって部屋に入った方が安全な気がして、皆のいる部屋に戻ろうとしたら中から俺を呼ぶ声が聞こえた。
「黒崎さん、そんなとこ突っ立ってないでお入りなさいな。」
「――――――…はい。」
暫くの逡巡の後、観念して入ることにした。
浦原が中に居れるってことは危険なことにはなっていないみたいだ。
アイツを基準に考えるのは些かオカシイ気もしないでもないが。
「は、入るぞ…」
恐る恐る襖を開けた。
目の前に広がっていたのは…
花びらの舞う浦原の部屋だった。
先が花びらで何も見えない。
ここは確か屋内で、俺は植物園かどっかに来た覚えはない。
「う、浦原!?」
大量の花びらが舞う部屋で必死に浦原の姿を探した。
「ココっスよー!」
黒崎さんいらっしゃーい!と威勢よく飛びついてきた。
突然のことでバランスを崩し、そのまま倒れてしまった。
「痛っ!・・・・くない?」
いつもは畳がある場所に花が咲いていた。
よくよく周りを見ると色とりどりの花がみっしり咲いている。
季節の違う花も咲いている。大方、浦原のオーバーテクノロジーで咲かせたやつだろう。
「いつからお前は園芸家になったんだ…」
抱き付いて胸にグリグリと頭を擦り付けていた浦原が顔を上げ、
子どものような笑みを浮かべながらこの状況を作り出した理由を言った。
「綺麗でしょー?黒崎さんの為に一所懸命作ったんだから。」
「―――――…そうか。」
皆になんて説明したらいいのだろうか。
部屋に花が咲いていましたで納得してくれるはずがない。
何で?と聞かれるにきまってる。
それが俺の為でしたなんて断じて言えない。
「か、帰る。」
浦原を押しのけんと腕を突っ張ったが、ビクともしない。
「どけって!」
「何でっスか〜?感想なしですか!?」
喜んでくれると思ってした行動なんだろうけど、ただの迷惑だ。
常人離れした頭脳を持つと自分の部屋を花畑に返る気が起こるのか?
「いいから!俺は帰る!」
「ちょっと待って下さいヨ。見せたいものがあるんです!」
押しのけようとした相手は俺を抱き起こし、
手を引いて押入れの前に連れて来た。
またスゴイことがこの中で繰り広げられているであろうことを考えると気が重くなった。
「そんな嫌そうな顔しないで下さいナ。きっと喜びますよ!」
そう言える根拠はどこにあるのか問い質したい。
「はい。オープン!」
浦原のかけ声と同時に勝手に押入れが勢いよく開いた。
予想通り、普通の押入れと違った。
原っぱが広がっていた。
少し先に小高い丘があり、その上に桜の木が一本植わっていた。
気持ちのいい風が押入れの中のはずなのに吹いている。
その風に乗って、散った桜の花びらが俺達が立っていた扉までやって来た。
「これが、見せたかったものか?」
「はい!綺麗でしょ!本当は黒崎さんの髪の色に似せてオレンジ色の桜を咲かせようと思ったんですけど、
この部屋を作る方に時間がかかってしまってできませんでした。ゴメンネ〜」
謝られても、何て返せばいいのか思いつかない。
イイヨとか気にするなとかは絶対違う。
あまりの突飛さに力なくその場に崩れた。
俺はこの男をどうすればいいんだ。止めれる人がいたらお会いしたいものだ。
「やや!黒崎さん具合が悪いんですか?でしたら、桜の木の下でお昼寝してはいかっがすか?」
それがいいっスよーと一人で決め込み、俺を担いで走った。
随分と楽しそうにしているコイツを止めた後に何が起こるか想像すると、
抵抗する気が失せて大人しくした。
「浦原。」
「何っスか?」
「ここはもうこのままでもいいから、お前の部屋だけでも元に戻せよ…テッサイさんが掃除しずらいだろ…」
「はい。黒崎さん、気持ちいいッスね〜v」
「そうだな…」
浦原に膝枕してもらいながら、頭上の桜に目をやった。
ハラハラと散る桜を目で追っていると、視線を感じた。
浦原がコチラをじっと見つめていた。
これはもう外だと自分に言い聞かせ、頭の痛い状況から現実逃避を図るべく目を閉じた。
そのすぐ後に花びらが唇に落ちてきたかのような、口付けが止めどなく降ってきた。
「幸せ。」
と浦原がポソリと呟いたのは夢の中でのことだろうか。
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KITCHのまひろ様から頂いてしまいました・・・・!!!
まひろさんは私を萌え殺す気満々のようです(死
ありがとうございましたーー!!!
さらに絵まで・・・感謝ですっ・・・!
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