待とう、せめてあと五年ほど。
自分自身に言い聞かせるように念じていたはずなのに、なぜこんなことになってしまったのだろう。
・・・・・・本当は五年でもやばいとも思うのだが。
とにかく、この状況下は心臓に悪すぎた。
child wife?
+ + + + + +
子供というものは突拍子もなく、大人には理解しがたいことを考える。
零れ落ちそうなほど大きな瞳からぽたぽたと溢れる涙が、じわりじわりと膝に小さな染みを作っていた。
自分の腰までしか背丈のない、まだ幼い子供は声を必死に殺しながら泣いている。
それでもやはり漏れてしまう嗚咽は、とても痛々しい。
お願いだから泣かないでと、懇願するようにしても一向に泣き止む気配がない。
腰に小さな両手を回されて、ぎゅうと強く抱きつかれた状態で一護は泣き続けている。
引き剥がしてしまうのは簡単だが、それをしたところでこの子供が納得する訳でも泣き止む訳でもないことは分かっていた。
羽織の裾を掴んで離さない子供の手は、震えている。
「っ、う・・・ひぐぅ・・・ぁ・・・」
ようやく生まれてまだ二桁も経たない歳の子供が声を殺して泣く姿は、他に形容のしようもないほど痛々しく悲壮に満ちていた。
慰めるために抱きしめようと腕を伸ばしかけて、止める。
そのまま抱きしめてしまったら、なんとなく全てがうやむやになってしまいそうで嫌だった。
「ねぇ、一護。泣かないで、君が泣くと僕まで悲しくなっちゃうでしょう」
諭すように、ゆっくり声をかけると腰に押し付けていた小さな体を僅かに離して一護は真っ赤になった目で見上げてくる。
耐えるように、眉間に皺を寄せて唇をきつく噛み締めて涙に潤んだ目で見上げられて一瞬思考が停止した。
シグナルイエロー、危険信号発令一歩手前。
こんなこと今まで思いもしなかった、自分はこんなにもこの子供に弱い。
小さな手に自分の手を重ね、同じ視線まで屈みこむと一護は俯いて視線をそらした。
「だって・・・っ、だって・・・ぇ、っ・・・・」
普段は聞き分けのいい子供が、どうしても今日は自分の言葉にほだされてくれない。
舌三寸、手八丁口八丁。
どんなに手を尽くしても、だめだった。
「・・・ぅ、・・喜助が、一護を嫌いっていうから、だから・・・・」
「だからね、僕が一護を嫌いな訳ないよ。大好きだよ、一護」
引っかかるようにして一護の口から出た言葉を瞬時に否定して、大好きだからと囁く。
そんなはずないのに、嫌えるはずがないのに。
大事に大事に慈しんで、間違いなく自分にとっての一番を独占している存在にそんなことを言われてしまって少なからずショックを受けているけれど今は泣いている一護が何よりも優先だ。
「喜助の嘘つき!!だって、喜助は一護にキスしてくれないじゃん!すきな人同士だったらキスするんでしょ、知ってるんだから!!」
一護の言葉が耳に入って、脳に届くまで数十秒に時間を要した。
そんな話をどこから仕入れてきたのかとか、最近の子供は妙にマセているなァとか、そんなことを思いながらゆっくりと落ちてくる言葉を確かめるように口にした。
「キス・・・って」
おはよう、おやすみ、。
起きた時、寝る前には毎日欠かさずしている自分の日課を思い切り否定されてそれを言い返そうとしたが一護の目を見ればそういうことではないのだと分かる。
涙で濡れた目は、甘えきった目は、『わかってよ』と訴える。
きつく握った拳で涙を拭い、それでもなお真っ直ぐに自分を見つめてくる一護は本気だった。
子供の、言ってしまえば短絡的な考え方を悟ることは大人にしてみれば造作もない。
無知は罪だが、無垢な事が如何して罪であろうか。
何も知らない子供は、自分の知らない間にどこからか本当に無駄な知識を仕入れてきたようだ。
やれやれと息をついて、慰めるように滑らかな弾力の頬に手を滑らせた。
引き寄せて、頬に小さく音を立ててキスをしたが一護の機嫌は直らない。
「ちがうの・・・っ」
何が違うのか、分かっていたけど。
「何が違うの?」
わざと、問うてみた。
腹の中で、アァ何やってるんだろうと思いながらも止まらなかった。
実際、困るけど嫌じゃないから大変なんだ。
「ほっぺじゃなくて、ちがくて、だから・・・」
また瞳にたまり始める涙、零れても絶えない、涙。
必死に言い募る一護を、不謹慎にも愛しいと思った。
言い訳をするなら、無意識だった。
するつもりなんてなかった。
だって子供のたわごとじゃないか、一体何を期待してるんだ。
間に受ける方がどうかしている。
どうか、している。
「ん、っ・・・!」
子供特有の柔らかさを感じて、一瞬現に引き戻されかけた。
けれど触れた唇はずっと欲しかったもの。
幼い気まぐれな我侭や勘違いではなく、確かな欲望でそれを欲していた。
一護の口から漏れた驚きを含んだうめきは、全面的に無視した。
「んっ、うぅ・・!、ぁ!」
逃げられないように腰を掴んで、隙間もないほど強く抱きしめた。
弱々しい力で必死に抵抗する一護を抑え込み、己の欲望のままに小さな口に下を差し込んだ。
くちゅりと淫猥な音が漏れて、瞬間一護の体から力が抜け落ちた。
腕におちてくる重みが心地良い。
早く短い息をつく一護を無視して、呼吸の暇を与えないほど喰らい付いた。
「・・・やぁ・・・ぅっ、」
「一護・・・・・」
好意が性欲に直結するなんて考えもしない、知りもしない子供を誑かしている自分はもしかしなくても犯罪者だろうか。
恍惚とした声で名前を呼んだ、愛しいと。ただ愛しいと。
自分の手はスルリと一護の腰へと伸び、その間にもキスの雨を降らせる。
小さな臀部をなでまわすと、いままでになく一護が強く抵抗した。
咽の奥でくぐもった声を上げ、動かせない腕を揺らす。
目で懇願したが、それはもう届かない。
キスの合間のその時に言葉がなかったら、どうなっていただろう。
もう一度名前を呼ぼうと口を開いたが、一護はそれよりも早く叫び声を上げた。
「やだっ、いや・・・喜助!!」
あぁ、と。
思ったときには遅かった。
声に、我に返ったときには遅かった。
先ほどの涙なんて比ではない位、痛々しい泣き顔が目の前にあった。
頭に上りきった熱が、一瞬にして冷めていくのが分かる。
謝罪の言葉も出ず、できたのは腕の力を緩めることくらいで。
「や、だよ・・・」
泣き声で、もう一度そう言って一護は気を失った。
+ + + + + +
馬鹿か、本当に。
警察に捕まっても文句は言えない。
小学生に手を出す大人などいっそ死ねばいいと思っていた、冗談じゃないと。
いくらなんでもそこまで狂ってはいないと。
ふたを開けてみればなんだ、どこからどう見ても変態が一人。
何度も繰り返す、おいまて自分。
相手はまだ十歳にも満たない幼児だぞ、小学生だぞ、更に言うなら男だぞ。
なのに、腕の中の子供に欲情している自分は一体なんだ。
・・・・・・なんで、こんなことになってしまったんだろう。
END