一人寝が寂しいなんて、そんな。子供じゃあるまいし。
でも、いつからか一人では眠れなくなってしまった。
隣に感じる他人のあたたかさを、恋しいとおもった。

愛しいと、おもった。







「明日来れないから」



おやつ時。

テッサイ作のきなこもちを完食し、静岡産高級玉露を啜りながら一護はそう言った。
一護の間となりでつい先程まで寝ていた浦原はその言葉にまだ反応しきれていない。
普段なら守護が無くても一護の言葉ならすぐに反応するのに、寝起きで言葉が耳を素通りしていた。

そうしてぴったり三拍おいて、ようやくその言葉が脳内処理された。


「えええええぇっ!?」


「ンな驚くことかよ・・・学校の用事があって遅くなるから寄れないだけだっつーの」


「でも来ないんでしょう?」


掠れて少し裏返っている声は表情とあわさって酷く情けなく感じられる。
浦原は床に伏した上体のままズリズリと匍匐前進でにじりよってくる。
たって歩けば2歩も無い距離だ、一護は手を伸ばして浦原の頭をベシッと叩いた。


「いたっ・・・」


「止めろ、キモイ」


「・・・・黒崎さん、アタシだって傷つくんスよぉ」


ついには泣きまねまではじめた浦原は一護の服を掴んで離さない。
小さい子供のようで可愛いかも・・・・とか、そんな考えをするほど一護の脳は腐っては居なかったのでもう一度叩かれただけで終わったが。
その勢いで少し帽子がずれたので、それを直しながらまだ浦原はブツブツと小さく不満を漏らしている。
そんなことはいつものことなので、一護もハイハイと軽くあしらって食器の片づけをはじめた。
育ち盛りの高校生男子の腹に収まった2皿文のきなこもちは今日もおいしかった、おしまい。
脳内でイロイロと完結している一護とは裏腹に情けない顔で畳にのの字を書いているダメな大人が一人。



「・・・・・ひどい・・・・ひどすぎる・・・・・」




また始まった。

心の中でそう呟いた一護は重い息を吐いた。
これが始まると嘘だと分かっていてもついつい許してしまう一護だが、今日はそういうわけにもいかない。

最近は浦原商店に通いつめているせいで、付き合いが悪いと啓吾に居残りでの仕事を押し付けられてしまってどうにもならないのだから。
そのことは気にしていただけに断りづらく、自分以外にやる人間が居ないときた。
仕方ないとは言いつつも、けじめはしっかりつけなくてはいけないと思う。




「浦原・・・、明後日は来るから・・・・・」


「ヤです」


泣きまねを止めてきっぱりとそう答えるものだから、一護も少々ムッときた。


「仕方ないんだから我侭言うなっての」


「だってヤなんですもん」


「アンタなぁ・・・・・」


嫌、の一点張りでまるっきり子供の我侭をつきとおす浦原に一護のイライラ度も高まっていく。
一護の拳がふるふると震え始めて、もう臨界点突破までカウントテンといった所。


「だって、」



浦原が項垂れて、帽子を目深にかぶりなおした。
ゆっくりと口を開いて、一護をじっとみつめた。







「貴方がいなくなったら、アタシは眠れもしないのに・・・どうしろって言うんスか」






隣で暖かな体温を感じながらほんの少しだけ触れたり、触れなかったり。
傍に居てくれないと、もう眠れなくなってしまった。
人前で眠るなんて、今までしなかったしする気も無かった。
自らそれを望む時が来るとは、夢にも思わなかったのに。






「貴方の隣でなくちゃ、嫌だ」




本当は一分一秒だって離れて居たくないのに、丸一日会えないだなんて我慢できない。





「傍にいて」





縋りついて来る腕、一護は動きを止めたまま動けなかった。
払いのけられようもない腕を、愛しく思っていたから。





「・・・・・・わかったよ」



すっかり抱きすくめられてから、ようやく言葉が出てきた。
結局、許してしまった。



結局、一護がどう悩もうとも浦原の我侭はいつも通ってしまうのだ。

惚れた弱みだと、笑いますか?
でも、理屈じゃないんですよね。






















END